2014年4月23日水曜日

事業承継(5) 種類株式の利用

経営者の世代交代にあたって会社の経営が危うくなる一つの原因は,相続に伴って経営権がばらばらになってしまうことにあることはこのシリーズでも何度かお伝えしました。
→ 事業承継(1) 事業承継対策の必要性
→ 事業承継(3) 経営承継円滑化法 その2 遺留分に関する民法の特例



会社の意思決定は議決権の過半数の株主の賛成によって行いますが,重要な事項の決定は総議決権の3分の2以上の特別決議による賛成が必要になります。
すなわち,会社の意思決定を2/3以上の議決権を抑えておく必要があります。

このときに考えられるのが,種類株式の利用です。
株式会社は普通株式とは性質の異なる種類株式を発行することができます。
種類株式には多くの種類がありますが,議決権を持たない無議決権株式や一定の事項について議決権を持たない一部議決権制限株式も認められます。
これは,会社の株主であることは望むものの,経営に参画する意思のない株主に割り当てることに適しています。
通常は,利益配当等に期待できる株式として,議決権がない代わりに配当の割合を高めるといった方法で,普通株式との調整を行うのです。

先代の社長は,遺言により,自分の持つ会社株式のうち普通株式を後継者相続人に,議決権制限株式をその他の相続人に相続させることにより,後継者相続人に会社の議決権を集中させることが可能になります。

ただし,この方法をとるためにはポイントがあります。

議決権制限株式を発行または普通株式の一部を議決権制限株式に変更できるだけの会社経営権を持っている必要があります。
最終的には株主総会の特別決議で種類株式の発行が出来るように定款変更を行う必要があります。
したがって,経営者側が3分の2以上の議決権を抑えている必要があります。

さらに議決権制限株式を誰に割り当てるのかも問題となります。
① 新株発行,第三者割当の方法により経営者に割り当てる方法
② 発行済株式の一部を議決権制限株式に変更する方法
③ 新株発行,株主への無償割当による方法

①は,募集株式の数,払込金額又はその算定方法等の発行事項,割当を受ける者及び割当を受ける株式数を株主総会の特別決議で決めます。
3分の2以上の議決権を抑えていれば,方法としては簡単ですが,対価の払い込みが必要となるため,経営者には資力が求められます。

②は種類株式への変更を希望する株主と会社の合意のほか,他の株主全員からの同意が必要となります。
ただし,経営者の株式の一部を議決権制限株式に変更してしまうことにより,経営者の議決権は薄まりますので,経営者が議決権をほとんど独占しているような状況でなければ使えません。

③は全ての株主に対して同じ割合で新株を無償で割り当てる方法です。
議決権の構成に変化はないため,株主総会の普通決議(取締役会がある場合は取締役会決議)で可能です。
全部取得条項付種類株式として議決権制限株式を既存株主に無償割当する方法をとることも出来ます。



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