2021年6月10日木曜日

建築アスベスト被害救済について

建設現場でアスベストを吸い、中皮腫などの健康被害を受けた労働者や遺族が国や建設資材を製造していた企業の責任を問うた一連の裁判の最高裁判決(2021年5月17日)を受けて、救済法が成立したとのことです。

建設アスベスト 最大1300万円の給付金 救済法可決・成立 参院

これまで、アスベスト被害については、石綿健康被害救済制度により一定の救済がされていましたが、その対象外とされていた被害者たちが集団訴訟で救済を訴えていたものです。

対象者
1975年10月から2004年9月までに屋内での建設作業を行っていたり、1972年10月から1975年9月までにアスベストの吹きつけ作業に従事したりしていて、アスベストが原因の中皮腫や肺がんなどになった人とその遺族

症状に応じて550万円から1300万円の給付金が支給されるとのことです。

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2021年6月9日水曜日

検察審査会

当初は不起訴とした被疑者を一転して略式起訴にした、というニュースがありました。

東京地検特捜部が菅原前経産相を一転略式起訴したワケ

不起訴は検察官による終局処分の一つで、新たな証拠でも見つからない限り、略式起訴にしろ、通常の起訴にしろ、原則として同じ事件で起訴されることはないと考えて良いかと思います。
もちろん、身柄拘束(逮捕・勾留)が続いていた場合も、不起訴により釈放されることになります。

起訴・不起訴は検察官が独占する権限ですが、不起訴に対する不服申立の手段があります。
それが検察審査会の制度であり、検察官の権限に民意を反映させることを目的としています。

検察審査会は、無作為に選ばれた国民から構成されており、各地方裁判所の中(建物内)に設置されています。
検察官による不起訴処分に不服のある告訴者、告発者、犯罪被害者等は、検察審査会に不服を申し立てることができます。

検察審査会の審査により、「起訴相当」または「不起訴不当」と判断された場合には、検察官が再度、起訴するかどうかを判断することになります。
もっとも、検察官は、検察審査会の判断に拘束されることはありませんので、再び不起訴と判断することも、よくあります。

「起訴相当」とした事件が再び不起訴とされた場合、検察審査会は、弁護士を審査補助員に委嘱して、再び審査を行います。
この再審査の結果、再び「起訴相当」と判断した場合は、「起訴をすべき議決」(起訴議決)を行います。

起訴議決された事件は、裁判所が弁護士を検察官の職務を行う「指定弁護士」として、刑事裁判が開始されることになります。(強制起訴)

今回のニュースの記事では、「起訴相当」決議を受けて、検察官による再度の判断として、略式起訴が選択された、という事情があります。

「嫌疑不十分」といった理由で不起訴となった事件については、強制起訴しても有罪判決を得ることはなかなか容易ではありません。
もともと検察官が、裁判では有罪とするのは難しいだろうと考えていた事件であるからです。
しかし、今回のケースは、「起訴猶予」という理由で不起訴とされているものであるため、いったん起訴されてしまえば有罪が予想されるところでした。
そのため、強制起訴されてしまうと、検察官の判断は誤っていたと評価されることになってしまいます。
そのため、検察官は、略式起訴を決めたのであろうと思われます。
検察官は、起訴に際して、略式起訴と通常起訴の選択ができますが(略式起訴には被疑者の同意が必要です。)、強制起訴の場合は、通常の裁判手続となります。

なお、検察審査会に申立がされた場合に、審査会の判断を待たずに、検察官が再考して起訴に踏み切る事件が一定数あるとのことです。
その場合は、検察審査会の審査は打ち切りとなります。
いったん不起訴とされた被疑者の立場が不安定になるため、問題であろうと思われます。

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2021年6月8日火曜日

保釈制度

保釈のニュースを元に

秋元司衆議院議員 保釈され東京拘置所出る

刑事手続における身柄拘束には、逮捕、勾留といったものがあります。
さらに勾留は、起訴前の勾留、起訴後の勾留といったものがあります。

逮捕と起訴前の勾留には期間制限がありますが、起訴後の勾留は容易に更新されるため、ずっと身柄拘束されているということも珍しくありません。

なお、起訴前の段階で犯人であると疑われている人を「被疑者」と呼びますが、起訴後の段階では「被告人」という呼び方に変わります。
マスコミなどは、それぞれ「容疑者」「被告」という呼び方を使うことも多いですね。

さて、本題の保釈ですが、これは起訴後の勾留に対して、被告人側で請求できる制度となります。
保釈には、権利保釈と裁量保釈という2種類がありますが、権利保釈は要件さえ整っていれば保釈を認めなければならないという場合の保釈、裁量保釈は要件は満たさないものの裁判所の判断で保釈しても良いと判断される場合の保釈を言います。

権利保釈でも裁量保釈でも、保釈保証金が設定され、これを収めることで身柄拘束が解かれるというのが通常です。
保釈保証金は、被告人が逃走等をせずに公判(刑事裁判)へ確実に出席すること等を担保するために必要なもので、約束事項を守らなければ没収(法律用語では「没取」)されてしまいます。


以下の6つの要件に当てはまらなければ、権利保釈が認められることになります。
①被告人が重大犯罪(死刑・無期・短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪)を犯した
②被告人が前に死刑・無期・長期10年を超える懲役・禁錮にあたる罪で有罪の宣告を受けた
③被告人が常習として長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した
④被告人が証拠を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある
⑤被告人が被害者や証人となり得る者またはその親族の身体や財産に害を加え、またはこれらの者を怖がらせる行為をすると疑うに足りる相当な理由がある
⑥被告人の氏名または住居がわからない

軽い犯罪行為であれば、証拠隠滅等のおそれがなければ権利保釈が認められそうです。
もっとも、否認をしていると、④罪証隠滅のおそれや、⑤被害者証人等への危害のおそれ、などといった理由が認められやすく、権利保釈は認められない、という結論になるのが通常です。

裁量保釈は、前述のとおり権利保釈が認められない場合に認められる可能性のある保釈です。

否認していれば裁量保釈も認められないことが多いことは事実ですが、必ずしもそうとも限りません。
近年は、「人質司法」と批判される日本の刑事捜査・裁判制度への批判への反省からか、保釈が認められる可能性は高まってきていると思われます。

冒頭で引用したニュースでも、被告人は無罪を主張していますが、保釈保証金8000万円という条件で保釈が認められたようです。

保釈保証金8000万円というのは、相当に高額な金額ですね。
これは、保釈保証金の目的から考えて、逃走や罪証隠滅の可能性などと、本人の財産状況を踏まえて没取されては困る金額などを考慮して決定される金額となります。
一般的な事件であれば、このような高額になることはほとんどありません。

被疑者の段階では、準抗告等で身柄解放を目指し、それがかなわなかった場合にも、起訴後には速やかに保釈制度による身柄解放を目指す、これが初期の弁護人の重要な活動の一つとなっています。

籠池夫妻、「事実誤認」と二審でも否認 森友補助金不正
こちらの事件は、起訴後も保釈がなかなか認められない(身柄拘束が1年8か月に及んだ)事件でした。
判決が確定するまでは無罪推定が働くわけですから、このように起訴後勾留を続けることは重要な人権侵害であると主張する必要があります。
有罪か無罪かを決めるのは弁護人の役割ではありませんが、判決確定前の身柄拘束が、事実上の刑罰の執行であってはならないということは言うまでもありません。


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