債務整理の事例として,私が経験したものから,差し支えの無い範囲で(適当にアレンジを加えつつ)紹介します。
今回は,投資用マンションを10個以上も持った方が,支払いに窮して相談に来られた事例です。
投資用マンションという言葉が正確かどうか分かりませんが,自分の居住用ではなく,賃貸用としてマンションを購入し,家賃収入にて利益を生むというビジネスモデルは,よく聞く話です。
しかし,オーナーとなったからには賃借人に対する責任も負うことになりますし,賃借人がいない間の空室リスクを負うことにもなります。
したがって,賃料が住宅ローンの返済額を上回っているからといって,賃貸用マンションが「買い」というわけには参りません。
依頼者は,それぞれの賃貸用マンション購入にあたって住宅ローンを組むことができたことからも分かるとおり,仕事上の収入もそれなりにある人でした。
しかし,マンションに必ず賃借人がいるとは限りませんし,すべてのマンションで滞納なく賃料が支払われるとも限りません。
このようなリスクはもちろん織り込み済みだったのでしょうが,あるとき本業の収入が下がってしまい,追い打ちをかけるように空室が増えたために,突然支払いに窮してしまったのです。
こんなとき,すべての賃貸マンションにおいて,ローン残額よりもそのマンションの資産価値が上回っていれば,そのマンションを売却処分することにより,うまく納めることができます。
しかし,依頼者の場合には,そのような都合のよいマンションはありませんでした。
そこで,弁護士介入による債務整理が必要だということになり,相談に見えたのです。
まず,負債の規模から言って,法的整理手続が必要であることは,間違いなさそうでした。
しかし,依頼者は,自身の住むマンションもあり,これについては住宅ローンも負担してはいますが,愛着が有り,できれば維持したい,という考えでした。
このような場合には,再生手続を検討することになります。
そして,賃貸用マンションについては,すべて売却処分し,残ったローン等を,再生債権として再生計画の中で圧縮して支払っていくこと,一方で自宅については住宅資金特別条項の利用により,依頼者の希望を達成できる可能性があることは,確認しました。
このような中で,賃貸用マンションについて順次売却を進めていくことになりました。
ローンの方が上回っている場合には,マンションは手放すことになっても,依頼者には入ってきません。
それでも,申立間際になると,売却活動により,それなりの現金ができました。
もちろん,この現金は,代理人である私が預かっています。
売却処分を進めて,負債の総額を調査していくうちに,自宅住宅ローンを含めて,5000万円を上回ることが判明しました。
個人再生手続の利用には,住宅資金特別条項を用いる住宅ローンを除いた負債総額が5000万円を下回る必要があります。
したがって,この依頼者の場合には,個人再生手続が利用できないことになりました。
これで,再生手続は不可能,破産手続しかない,ということになるのでしょうか。
いいえ,そうではありません。
個人再生手続は,個人向けに作られた再生手続の簡易版であり,これを利用できるに越したことは無いのですが,個人であるから個人再生手続しかできないという訳ではありません。
通常再生手続もとることができるのです。
通常再生手続は,弁済率の要件等も無く,清算価値の保証と,過半数債権者の同意があれば,柔軟な再生計画が認められます。
しかし,手続は,個人再生手続とは違って,裁判所に選任された監督委員のもと厳格に手続が進められ,裁判所に納める予納金も跳ね上がります。
このように,個人再生手続よりも「難しい」イメージの通常再生手続ですが,この依頼者の場合には,良いこともありました。
それは,マンションの処分の中で形成できたまとまった現金が一時的にあったことです。
これを,再生手続の裁判費用および再生計画の支払い原資として,通常再生手続を申し立てました。
手元にある現金のうち,依頼者の差し押さえ禁止財産(自由財産)相当部分を除いた全額を,各債権者に一括で弁済して終わらせる,という再生計画案を作成しました。
この計画案が債権者から反対される場合には,頭金+分割弁済という修正計画案を作成するつもりでしたが,弁済率が,個人再生手続で再生債権5000万円以下の場合の最低弁済率である10%を上回っていたこともあり,各債権者とも賛成にまわってくれました。
かくして,依頼者は,再生手続により自宅を維持しつつ,一括で再生計画にしたがった弁済も終えて,債務整理をすることができたのでした。
かなり複雑な過程をたどりましたが,何らかの方法が取れるのでは無いか,とあきらめないことが肝心ですね。
そして,私は,このようなケースを経験したので,投資用マンションビジネスには,かなり慎重です。
もちろん,依頼者の希望に添えない場合には,不可能です,とお伝えします。
しかし,これは,このような経験に基づく判断である,ということをご理解いただければと思います。
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