2014年8月11日月曜日

執行猶予判決について

日本の刑罰には,執行猶予をつけることができる場合があります。

執行猶予をつけることができる刑罰の種類は,懲役,禁錮および罰金です。
しかし,罰金についての執行猶予はほとんど無いので,ここでは懲役(禁錮)について述べたいと思います。
刑罰の種類については,こちらの記事をご覧ください。→ リンク



執行猶予とは,一定期間刑の執行を猶予する制度であり,無罪とは異なります。
しかし,懲役刑で執行猶予がつかない,ということは,実刑といって,刑務所へ行くことを意味します。
すなわち,執行猶予がつくか,つかないか,というのは天と地ほどの差があると言って良いでしょう。

(1) 執行猶予をつけることができる場合

執行猶予をつけることができる場合は,刑法25条に規定されています。

1 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
 ① 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
 ② 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2 前に禁錮以上の計に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

執行猶予をつけることができるのは,原則として次の要件を満たさなければなりません。
ア 3年以下の懲役刑を言い渡す場合で,
イ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合か,前に禁錮以上の刑に処せられたとしても,その執行を終わった日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

アの要件のため,罪名によっては,基本的に執行猶予がつかない,ということになります。
例えば,殺人罪の法定刑は,最低でも懲役5年なので,原則として執行猶予はつきませんが,酌量減軽(刑法67条,68条)により,執行猶予をつけることができます。
強盗致傷罪は,以前は,最低でも懲役7年だったため,これを酌量減軽しても執行猶予をつけることはできませんでしたが,平成16年の刑法改正により,懲役6年以上となったため,酌量減軽と組み合わせることで執行猶予をつけることができるようになりました。
強盗致死罪は,無期懲役か死刑しか法定刑にないため,無期懲役を酌量減軽(7年以上の有期懲役となります。刑法68条2号)しても,執行猶予をつけることはできません。

イの要件は,くせ者です。
「禁錮以上の刑に処せられたことがない」という条文が,よく分からないですね。
まず,以前に執行猶予判決を受けた場合はどうなんでしょうか。
執行猶予判決は,刑の執行が猶予されたのですから,一見「刑に処せられたことがない」と言えそうですが,そうではありません。
「刑に処せられた」というのは,刑の言い渡しが確定したことを意味します。
したがって,執行猶予判決を受けたことがある場合にも,それが確定している以上,「禁錮以上の刑に処せられた」ことになります。
したがって,執行猶予判決であっても,以前に懲役・禁錮の判決をもらっている場合には,執行猶予がつかない,ということになりそうです。
しかし,執行猶予期間がすでに満了している場合はどうでしょうか。
執行猶予の言い渡しが取り消されること無く,猶予の期間を経過した時は,刑の言い渡しは効力を失う(刑法27条)という規定により,執行猶予期間が経過した場合には,その刑を受けたこと自体が法律上はなくなりますから,「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない」ということになります。

ただし,執行猶予はかならずつくものではありません。
あくまでも,情状酌量のうえで,裁判官(裁判所)の判断により,つくかどうかが決まるということです。
当然ながら,以前執行猶予判決を受けたことがある人が,すでに執行猶予期間は過ぎているとはいえ,同じ罪を犯してしまったならば,執行猶予をもらえる可能性は低くなるでしょう。


(2) 再度の執行猶予

刑法25条1項では執行猶予が認められない場合にも,執行猶予がつく可能性はわずかながら残されています。

それは,執行猶予中に,再び懲役(禁錮)となる言い渡しを受けるときです。
① 前の執行猶予に保護観察がついていないこと
② 言い渡す刑が,1年以下の懲役(禁錮)となること
が最低条件となり,さらに,特に酌量すべきものがあるときに認められています。

再度の執行猶予が付く場合は,きわめて限られていますが,可能性が無いわけではありません。

再度の執行猶予が付くか付かないかは,下の執行猶予の取り消し制度と併せて,刑期がゼロか,2重にかかるかで大きく変わってきますので,被告人にとっては全く違ってくることになります。


(3) 執行猶予の取り消し

執行猶予が取り消されると,取り消された時から実刑に服すことになります。

刑法第26条,26条の2に規定があります。

1 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
2 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
3 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

執行猶予の期間内に,禁錮以上の刑に処せられ,再度の執行猶予を受けることができなかった場合が基本です。
この場合,執行猶予の取り消された前の刑と,新たな刑に服すことになるので,相当の長期間が予想されます。

「禁錮以上の刑に処せられ」というのは,刑が確定した場合を言います
そのため,刑を確定させないために,控訴・上告して確定までの「時間稼ぎ」をするような被告人の事例も見受けられます。
(その場合,新たな刑の刑期のみ,服役すれば足りることになるからです。)

なお,保護観察つき執行猶予中の場合には,執行猶予の裁量的取消し(刑法26条の2第2号)があるため,上訴による時間稼ぎは無駄になることも多いです。




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