私が経験した事例を,特定性等の観点から配慮しつつアレンジして,紹介したいと思います。
今回は,危急時遺言の有効性が問題となった例です。
私が大活躍したというわけではないですが,遺言の重要性が身にしみた事件でした。
遺言者には,配偶者をすでに亡くしており,子はなく,親もすでに亡くなっている女性でした。
そして,推定相続人は,姉をはじめとする何人かのきょうだいがいました。
もっとも,日頃から面倒を見ているのは,遠縁の親戚一家でした。
遺言者は,日頃から世話になっている親戚に,全財産を残したいと考えていました。
しかし,遺言書を作ることなく,あるとき突然転んで骨折し,入院してしまいました。
さらに,入院中に運悪く感染した肺炎により,いよいよ命が危うくなりました。
このままでは,遺言者のきょうだいに全財産が相続され,面倒を見ていた親戚に財産を譲りたい,という遺言者の気持ちはかなわないことになってしまいます。
かといって,遺言者には,自筆の遺言を書くだけの力も残っていませんでした。
そこで,遺言者が選択したのが危急時遺言。
証人を呼び集めて,病室で作成された遺言は,親戚1名にすべての財産を残す,というものでした。
その数ヶ月後,遺言者は回復することなく亡くなりました。
この遺言が,後から問題となり,受贈者から相談を受けたのが私です。
実はもっと複雑な事情があったのですが,簡単に言えば,このケースの場合,姉をはじめとするきょうだい達には遺留分がないため,一切の遺産が渡らなくなります。
そして,もっと重要なことに,遺言者は資産家だったのです。
そのため,自分で遺言書を書くこともできないような時に作られた遺言が,有効なはずがない,というのが,姉の言い分でした。
当然出てくるであろう主張ですね。
(私が仮に姉の方から依頼を受けた弁護士だったとしても,有効性に問題が無いかを徹底的に検討したでしょう。)
この中で,私はとりたてて特殊な活動をしたわけではなく,淡々と周辺事情から考えて,危急時遺言が有効であるという事情を述べただけです。
その結果,遺言の有効性は確認されました。
気づいたことは,遺言者の意思が表れている遺言というものの有効性を争うというのは,とても大変である,ということです。
たとえ危急時遺言であっても,遺言者の意思が反映されるように,要件は厳しく規定されている以上,形式的に整っている遺言は,とても強力です。
そして,遺言を残しておくことの重要性。
このケースの場合,遺言者は,危急時遺言とはいえ,遺言を残しておいたおかげで,財産を残したい相手に,遺贈することができました。
一方,以前からきちんと遺言を残しておけば回避できた親族間の争いを,遺言を残していなかったばかりに招いた例である,とも言えます。
もちろん,自筆証書遺言を残していたからといって,争いが完全に無かったとは言えませんが,姉としては,遺言が無効だという主張は,さらに難しくなった可能性は高いでしょう。
自分が亡くなった後,財産はどうなるのか,ということを考えてみることは重要ですね。
その上で,必要だと感じたら,遺言をきちんと残すようにしましょう。
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