2014年6月25日水曜日

労災・労災保険・労災認定について教えて下さい

労働者が労働災害などによって負傷した場合には,労働基準監督署長あてに労災保険給付の請求を行い,労働災害の認定を受けることが出来れば,労災保険の給付を受けることが出来ます。

それでは,どのような場合に労働災害と認められるのでしょうか。
また,どのような給付を受けることができるのでしょうか。



1 労働災害の認定

労働災害(労災)とは,労働者が業務中,負傷,疾病,傷害,死亡する災害のことを言います。

なお,この場合の「業務中」には,通勤中の災害も含むとされています。


2 会社の責任

使用者には,労働者の安全配慮義務があります。
一般的には,労働基準法や労働安全衛生法などの一般的規定が,使用者の安全配慮義務の根拠となります。

例えば,過労死や過労による精神疾患の発病などは,労働基準法による労働時間規制を使用者がどれだけ守っていたのか,どれだけ逸脱していたのか,という観点から労災であるかどうかが争われます。

そのほか,労働安全衛生法,じん肺法などで,就業に関する責任が課されているケースもあります。

これらの規制を遵守しないことにより,労働者が災害に遭った場合には,後述する労災補償の問題にとどまらず,使用者が労働者(遺族)から,債務不履行違反(または不法行為)を理由として,損害賠償を請求される可能性があります。

したがって,使用者としては,普段から,労災を起こさない職場環境づくりが必要となります。


それでも労災が起こってしまった場合,使用者には労災補償責任が生じます。

業務災害と通勤災害で,補償内容は異なります。

業務災害の場合には,使用者は,療養補償,休業補償,遺族補償などを行わなければ成りません。
これらを行わない場合には,労働基準法上の罰則も定められています。

ただし,労災保険給付が行われる場合には,使用者の責任が免除されることになります。

使用者に補償する能力がない場合には,労働者は災害を受けても補償を受けることが出来なくなってしまいますが,そのような事態が生じないように,労災保険という制度があります。

通勤災害の場合には,労働者は,業務災害の時と同じような保険給付を受けることが出来ますが,使用者には労災補償責任は生じません。
使用者の安全配慮により避けられる災害ではないからです。

人を一人でも雇っている事業者は,労災保険に入る義務があります。

保険の加入は,事業者ごとであり,保険給付の対象となる労働者は,その事業者のもとで働いてる労働者すべてです。
パートだから労災保険の対象外,などということはありません。

派遣社員の場合は,派遣元が責任を持ちます。
ただし,自己の原因究明や再発防止策は,当然ながら派遣先の責任となります。


使用者には,労災保険給付のための申請に協力する必要があります。
労働者が労災保険給付の請求する際に,使用者は,負傷又は疾病の年月日時刻,と,災害の原因及び発生状況等の証明をする必要があります。

しかし,使用者がその証明を拒否した場合,その証明のないまま,保険給付の請求を行うしかありません。
(その場合は,労基署に対し,事故証明不提出の理由書を提出します。)


なお,使用者による労災隠しは犯罪となり,刑事責任を負うこともあります。


3 労災認定がされない場合

労災保険給付の請求の場面において,労災であるかどうかを判断するのは,使用者ではなく,労基署です。

通勤災害は,どのような場合に認められるのかという基準がはっきりしているので,労災該当性を争う余地は少ないでしょう。
一方,業務災害では,業務上の災害といえるかどうか,判断が分かれうる場合もあります。

この労基署の判断に不服がある場合には,どうすれば良いのでしょうか。

まずは,審査請求を行います。
審査請求は,行政庁の処分に対し,上級庁の審査を求める手続です。

労基署長の判断に対する審査請求は,労働保険審査官労働保険審査会という,2段階の審査請求が可能です。

さらには,審査請求において労災認定が認められず,なお不服とする場合には,行政処分の取消訴訟を提起することが考えられます。
相手は,労働基準監督署長ということになります。

なお,審査請求に使用者が関与することは出来ませんが,取消訴訟においては,使用者が労基署長側に補助参加できる場合があります。


4 労災保険給付の内容


保険給付の内容には以下のものがあります。
( )内は通勤災害の場合。
保険給付を補足するものとして,社会復帰促進等事業として,特別支給も行われます。


① 療養補償給付(療養給付)

もらえるのは・・・病院等で治療を受けた時

労災指定病院,労災指定医療等で必要な療養を受けた場合,その療養自体が給付となります。
それ意外で必要な療養を受けた場合は,事後的にかかった費用が全額給付されます。

なお,労災による療養補償給付を受ける場合には,健康保険を使うことは出来ません。

仮に使った場合には,健康保険から労災保険への修正が必要になります。
切替可能な病院と,そうでない病院で対応が異なります。


② 休業補償給付(休業給付)

もらえるのは・・・休業したとき

労災により休業する場合,休業の4日目から,1日につき給付基礎日額(平均賃金相当額)の60%が支給されます。

さらに,休業特別支給金として,給付基礎日額の20%相当額が支給されます。

休業補償給付と特別支給金を併せると,給付基礎日額の80%の支給が受けられることになります。

なお,業務災害の場合,最初の3日分の休業補償は,使用者の責任にて行わなければなりません。
(通勤災害の場合には,使用者の責任にはならないので,労働者は有給休暇を充てる,といった対処をする必要があります。)


③ 障害補償給付(障害給付)

もらえるのは・・・治療が終わっても(症状固定しても)一定の障害が残った時

障害等等級の第1級から第7級に該当する障害に対し,給付基礎日額の313日分から131日分に相当する額が,年金で支給されます(障害補償年金)。

障害等等級の第8級から第14級までのときは,給付基礎日額の503日分から56日分に相当する額が,一時金で支払われます(障害補償一時金)。

さらに,障害特別支給金として,障害等等級に応じた金額が,一時金として支給されます。
また障害特別年金,障害特別一時金が,算定基礎日額の何日分,という形で支給されます。
算定基礎日額はボーナス等の特別支給を算定の基準とします。


④ 傷病補償年金(傷病年金)

もらえるのは・・・傷病が療養開始後1年6か月を経過しても治らない(症状固定しない)場合

傷病等級に応じ,給付基礎日額の313日分~245日分,年金の形で支給されます。

このほか,特別支給金として,一時金として傷病特別給付金,年金として傷病特別年金の支給を受けることが出来ます。


⑤ 介護保障給付(介護給付)

もらえるのは・・・障害補償年金または傷病補償年金を受ける権利があり,その障害が1級か2級のものにより,常時または随時介護を要する状態にあり,かつ介護を受けているとき

介護を受けている期間,介護費用の実費が支給されます(ただし上限あり)。

親族などによる介護を受けた場合には,費用を支出していなくても,一定額が給付されます。


⑥ 二次健康診断等給付

もらえるのは・・・労働安全衛生法に基づく健康診断の結果,過労死等の原因となる脳血管疾患等及び心臓疾患に関連する血圧,血中脂質,血糖,肥満度の4つの検査すべてに異常の所見があると診断されたとき

二次健康診断,特定保健指導を現物給付により受けることができます。


⑦ 葬祭料(葬祭給付)

もらえるのは・・・労働者が亡くなったとき

もらえる人・・・葬祭を行う者

「給付基礎日額の30日分に31万5000円を加えた額」と「給付基礎日額の60日分」のいずれか高い方の金額が支給されます。


⑧ 遺族補償年金(遺族年金)

もらえるのは・・・労働者が亡くなったとき

もらえる人・・・労働者の収入によって生計を維持していた受給資格者のうち最戦順位者

受給者と生計を一にする受給資格者の人数により,給付基礎日額の153日分~245日分が,年金として支給されます。

特別支給金である,遺族特別支給金と遺族特別年金の支給も認められます。




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