そのため,個人が自己破産を申し立てた場合には,反対の意思を表示しない限り,「免責許可の申立て」を同時にしたものとみなされます(破産法248条4項)。
(なお,債権者による破産申立の場合には,債務者は,破産手続開始決定から1月以内に,免責許可の申立てをしなければなりません。同条1項)
ほとんどの自己破産において,免責の許可決定は出ています。
しかし,すべての自己破産で,免責決定が自動的に得られる訳ではありません。
免責が認められないのはどのような場合でしょうか。
(1) 免責不許可事由
破産法では,「免責不許可事由」が定められています。
免責不許可事由に該当する場合には,原則として免責を受けることが出来ない,というのです。
破産法252条1項
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
① 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
② 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
③ 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
④ 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
⑤ 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
⑥ 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
⑦ 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
⑧ 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
⑨ 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
⑩ 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法 (平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項 に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項 (同法第二百四十四条 において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
⑪ 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
かなりたくさんの理由が並んでいるように見えます。
ひとつの行為が何号に該当するのか,微妙なケースもありますが,常識的に考えてやってはいけないだろう,ということは規制されている,といって良いでしょう。
破産手続中の行動・態度が問題となるケース
・ 財産を隠して,本来配当すべき財産を破産手続後も保時しようとする
・ 債権者への配当を少なくするために,財産を不当に安く処分したり,故意に損壊したりする。
・ 裁判所の調査(破産管財人の調査)に対し,協力しない,嘘をつく,又は妨害する
破産手続前の行動・態度が問題となるケース
・ 破産をしたくないばかりに,著しく不利益な債務負担をする
・ 破産を引き延ばすために,クレジットカードで高額な物を買って,すぐに換金する
・ 浪費や賭博により財産を減少させる,またはそのために借金する
・ 詐欺的な借入れ
・ 過去7年以内に,免責されている,または給与所得者再生を行い再生計画認可決定が確定した。
・ 特定の債権者に対する偏ぱ行為
・ 帳簿類の偽造等
破産手続中の問題を起こしてしまって免責されない,というのは仕方ないでしょう。
法的倒産手続により免責という利益を得ようとする以上,定められたルールに従うのは当然のことです。
問題は,破産手続前のケースです。
例えば,クレジットカードで回数券を買って,すぐに金券ショップに売りに行く,などという人もいます。
それで,当座の生活資金にするのです。
もちろん,それによって何か月も持つはずは無く,やがてカードの支払が回らなくなって,支払をストップします。
しかし,極端な場合をのぞけば,これであなたは免責を受けられません,というのでは,いささか酷でしょう。
浪費やギャンブルについても,同様です。
趣味にお金を使った,あとから考えたらこれが原因で借金が膨らんで,やがては支払停止の原因になったのだ,ということはそれほど珍しいとも思えません。
(2) 裁量免責
そういった場合,免責不許可事由は存在するものの,なお,裁判官の裁量で免責を与えるべきである,として免責許可決定が出るのが普通です(裁量免責,破産法252条2項)。
裁量免責があるため,多くの自己破産案件において,最終的には免責の決定が出ています。
ただし,これも程度問題で,浪費の程度があまりにも酷い,などといった場合には免責許可決定は出ないこともあり得ます。
なお,裁判所は,これらの事項の調査を,破産管財人に依頼することができます(破産法250条1項)。
そのため,資産の関係では同時廃止相当であっても,免責調査のために破産管財人が選任される管財手続が選択されることがあります。
(3) 非免責債権
免責許可決定により,配当で足りなかった債権については,破産者は責任を免れます。
しかし,一部の債権については,非免責債権であり,免責の効果が及びません。
非免責債権は,
① 租税等の請求権
② 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
③ 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
④ 夫婦間の協力・扶助の義務(民法752条)
⑤ 婚姻費用(民法760条)
⑥ 子の監護に関する義務(民法766条)
⑦ 扶養の義務(民法877~880条)
などとされています(破産法253条)。
養育費などを免れることは出来ません。
また,慰謝料債権なども,一部は免責されません。
免責されない,というのがどういうことかと言えば,これからの収入や資産により,返していかなければならない状態になるということです。
なお,破産手続において債権の確定手続が行われている場合には,その債権は判決を取られたのと同じで,時効期間もそこから10年ということになります。
免責許可決定が得られないことが予想されるようなケースは,本当に自己破産が最適な手続であるかどうか,検討する必要があるでしょう。
一方で,免責不許可事由に該当するかどうかは,実は条文を丹念に検討する必要があり,意外と当てはまらない,などということもあります。
本当に該当するのかどうか,きちんと検討することのできる弁護士に相談すべきでしょう。
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