2014年5月30日金曜日

遺留分減殺請求権について教えて下さい

被相続人が亡くなった場合に,有効な遺言が残されていた場合には,その遺言にしたがって相続財産が分配されるのが原則です。

しかし,民法の一番最後には遺留分の規定があり,遺留分の認められる相続人は,遺留分を侵害して行われた遺言による遺贈や相続分の指定を否定することができます。




民法1028条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
①  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
②  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

ポイントの1つは,兄弟姉妹には遺留分が認められない,ということです。
兄弟姉妹が相続人になるのは,被相続人に直系卑属(子,孫・・・),直系尊属(父母,祖父母・・・)がいないときですが,その場合には,被相続人が,
「すべての財産を妻に相続させる」とか「全財産をいとこのAさんに贈与する」とかいう遺言を残した場合,兄弟姉妹は遺留分の侵害を主張することは出来ません。

また,遺留分の割合は,法定相続人の構成によって変わってきます。

直系尊属のみが相続人である場合には,遺産の3分の1に遺留分が認められます。
(事例1)
例えば,被相続人が1000万円の遺産をのこして亡くなり,その相続人として父母だけが残っている場合に,被相続人が「いとこに全財産を贈与する」という遺言を残した場合,父母は遺留分の主張を行うことができます。
この場合,遺産の3分の1を父母の法定相続分の割合(1:1)で分けることになります。
よって,父母の遺留分は,1000万×1/3×1/2=166.6万円ということになります。

それ以外の場合には,遺産の2分の1に遺留分が認められます。
それ以外の場合には,次のパターンがあります。(%は,法定相続分の割合)
① 配偶者のみ(100%)
② 配偶者(1/2)と直系卑属(1/2を人数割り)
③ 直系卑属のみ(100%を人数割り)
④ 配偶者(2/3)と直系尊属(1/3を人数割り)
⑤ 配偶者(3/4)と兄弟姉妹(1/4を人数割り)
⑥ 兄弟姉妹のみ(100%を人数割り)
このうち,⑥の兄弟姉妹には遺留分が認められないため,問題とはなりません。

それ以外のパターンでは,2分の1に遺留分が認められることから
① 配偶者 1/2×100%=1/2
② 配偶者 1/2×1/2=1/4, 直系卑属 1/2×1/2=1/4(を人数割り)
③ 直系卑属 1/2×100%=1/2(を人数割り)
④ 配偶者 1/2×2/3=1/3, 直径尊属 1/2×1/3=1/6(を人数割り)
⑤ 配偶者 1/2×100%=1/2※, 兄弟姉妹 なし
※ 兄弟姉妹に遺留分がないことから,ここでは配偶者100%ということになります。


民法1029条(遺留分の算定)
1 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2  条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。


遺留分の算定の基礎となる被相続人の遺産は,民法1029条の規定により計算します。
要するに,被相続人が亡くなった時,贈与がされる前の(プラスの財産)ー(マイナスの財産)ということになります。
この贈与には,限定があります。


民法1030条
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。


基本的には,亡くなる前の1年間に贈与されて被相続人の財産でなくなったものも,遺留分の算定にあたっては,被相続人の財産と扱うことになります。


民法1031条 遺贈又は贈与の減殺請求
いわゆる遺留分減殺請求と言われる請求権です。
侵害された遺留分の範囲で,遺贈または生前贈与の減殺(減額)を請求することができます。

民法1042条 減殺請求権の期間の制限
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

これは重要な規定です。
減殺請求を行えるのは1年以内ですので,覚えておきましょう。


遺留分の減殺請求を受けた受贈者は,原則として譲り受けた物を返還することになりますが,目的物を第三者に譲渡してしまった時には,価額を弁償することになります(民法1040条)。
また,受贈者・受遺者は,目的物が手元にあるときでも,そのものの返還ではなく,目的物の価格の弁償で代えることもできます(民法1041条)。


受贈者の無視力によって生じた損失は,遺留分権利者の負担とされています(民法1037条)。
したがって,生前贈与を受けた人が,被相続人が亡くなった時には譲り受けた財産も含め,無視力になってしまっていた場合には,もはや減殺請求により取り戻すことはできません。


減殺請求は,権利ですので,必ず請求しなければならないものではありません。

遺留分を相続開始後に放棄することもでき,また,事前に放棄することも可能です。


第1043条(遺留分の放棄)
1 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2  共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。


これは重要な規定ですね。
事前の遺留分放棄には,家庭裁判所の許可が必要です。
事業承継等で,推定相続人の一人に財産を集中させたいものの,その推定相続人が遺留分請求に耐えられるだけの資産を持たない場合には,可能であれば,他の推定相続人に,遺留分の事前放棄をしてもらえれば,相続時のお家騒動を免れることができます。

なお,遺留分権利者の一人が遺留分を放棄しても,他の相続人の遺留分に影響はありません。
例えば,上記(事例1)で,母親は遺留分を放棄した場合,父親の遺留分が倍になるわけではありません。
父親の遺留分は,相変わらず166.6万円,ということになります。


実際には,全財産を赤の他人に遺贈するというような遺言がなされる場合はあまりありませんね。
やや複雑な事例で,遺留分をどのように算定していくのか見てみましょう。


(事例2)

事業を営むAは,8000万円の預貯金,2000万円の不動産,3000万円相当の自社株式を持っていたが,一方で事業のための借入金1000万円の負債があった。

Aは,共同経営者であるZに対し,自社株式全てを贈与したが,その6か月後に死亡した。
Aの相続人は,妻であるX,長男Y,次男Bである。
Aは,不動産はXに相続させ,現預金は全てYに遺贈するという遺言を残していた。

次男Bは遺留分を放棄する旨を伝えているが,X,Yは納得がいかず,減殺請求を行おうと考えている。


遺留分の基礎となる金額
遺産は,預貯金8000万+不動産2000万-負債1000万=9000万円です。
しかし,亡くなる6か月前の生前贈与は遺留分の基礎となるため,3000万円の株式も,その算定に加えられます(1029条,1030条)。
よって,遺留分の基礎となる金額は,9000万+3000万=1億2000万円ということになります。

XとYの遺留分
全体としての遺留分が1/2(1028条2号),それを法定相続分の割合で分けることになるため,
Xは1/2×1/2=1/4
Yは1/2×1/4=1/8
Bは1/2×1/4=1/8 → 放棄により0
次男Bが遺留分を放棄したことは,この割合に影響を与えません(1043条2項)。
よって,
Xの遺留分は1億2000万×1/4=3000万円
Yの遺留分は1億2000万×1/8=1500万円

侵害された遺留分の金額
実際に,Xが遺言によって得られたのは,2000万円相当の不動産のみ,Yに至っては全く得ていません。
よって,
Xは3000万-2000万=1000万円
Yは1500万円の遺留分を侵害されたことになります。

X及びYは,これをZに対して1年以内に請求することになります。

1032条では,「贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。」と規定されているので,Zは,生前贈与を受けた株式ではなく,遺贈を受けた8000万円の中から,Xに対し1000万円,Yに対し1500万円を弁償しなければなりません。

なお,この弁償は,減殺請求のあった日以後の,法定利息を付して行う必要があります(1036条)。

減殺請求の結果
Xは,1000万円の現預金と2000万円の不動産 → 合計3000万円相当を相続
Yは,1500万円の現預金を相続
Bは,なし
Zは,5500万円の現預金と生前贈与された3000万円の株式 → 合計8500万円相当を取得
となります。

ところで,負債1000万円はどうなるのでしょうか。
これは,法定相続人の間で法定相続分に基づいて負担することになります。

Xは500万円
Yは250万円
Bは250万円の負担をすることになります。

すなわち,Bは遺留分の放棄をしただけでは,負債の相続を免れません。
負債も相続しないようにするためには,相続放棄の手続が必要になります。

Bが相続放棄をすれば,最初から相続人ではなかったことになるため,遺留分の問題は生じません。
Bが相続放棄をした場合には,Xの法定相続分が1/2,Yの法定相続分が1/2になるため,X,Yは500万円ずつ負債を相続し,X,Yの遺留分金額は,ともに3000万円,ということになります。



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