記事はこちら → 時効援用について教えて下さい。
債権者にとっては,時効の完成により債権回収が不可能になってしまう可能性がある(※)ため,時効期間の経過には気をつけなければなりません。
※債務者が「援用」しなければ,回収することも可能です。
時効をめぐっては,判例によって形成されたルールや,除斥期間との違いなど,難しい部分もありますが,ここでは法律に規定されたものを確認していきましょう。
1 基本事項
① 消滅時効の進行
消滅時効は権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)
読んで字のごとくですが,お金を貸した場合に,その貸付金債権の時効が進行するのは,弁済期になってからです。
請負契約に基づく報酬債権は,仕事の完成時から時効が進行します。
請負契約は,仕事の完成により報酬請求可能となるからです。
不法行為に基づく損害賠償請求債権は,不法行為は,「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から」時効が進行するとされています(民法724条)。
損害があったこと,加害者がだけであるかが分かれば,損害賠償請求可能になる,という考えに基づいています。
そのほかの原因による債権も,請求が可能になったときから時効が進行します。
割賦払いなどによる債権は,返済期日ごとに消滅時効期間がバラバラに進行することになります。
ただし,期限の利益喪失の約束により,債務者の期限の利益が失われ,債権者が残額全てを請求できる状態になった場合には,全額につき,同時に消滅時効期間が進行します。
期限の利益は,債務者が支払いを怠ったことにより「当然に」失われるものと,債務者が支払いを怠って債権者が全額を請求することにより失われるものがあるため,注意が必要となります。
② 様々な消滅時効期間
消滅時効期間は権利の種類により異なる
これは次の項で見ていくことにしましょう。
③ 確定判決と時効
確定判決によって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする(民法174条の2第1項)。
この規定により,もともとの時効期間にかかわらず,判決が確定すれば,そこから10年間は時効期間が延びることになります。
これは,期間の経過により証拠が散逸してしまうおそれがないことや,時効の趣旨の一つとされる「権利の上に眠る者を保護しない」という原則にも反しないことから認められるものと考えられます。
この条項からの帰結は,例えばもとの債権の消滅時効期間が5年間で,時効の進行を開始してから4年目に裁判を起こしたとします。
後述のとおり,却下又は取下げで終わらない限り,提訴時点において時効の中断が認められます。
さらに勝訴判決を得て,これが確定した場合には,確定の時から10年に時効期間が延びることになるのです。
また,同じ訴訟を起こすことは訴えの利益が認められないため原則としては許されませんが,時効中断のためという理由があれば再訴が認められますので,理論的には何度も確定判決を取って,半永久的に時効期間を延ばすことは可能です。
(実際にそのメリットがある場合は,あまり考えられませんが。)
2 消滅時効期間
① 基本は10年
民法167条は,「債権は10年間行使しない時は,消滅する。」と規定しています。
「消滅する」となっていますが,債務者による援用がなければ消滅しないことは,前述のとおりです。
② 短期消滅時効
民法では,債権の種類ごとに10年よりも短い消滅時効期間が定められています。
5年
・ 定期金債権(民法169条)・・・年金・恩給・扶助料・地代・利息・賃借料などです
・ 取消権(民法126条)・・・追認可能になった時から進行します
・ 財産管理に関する親子間の債権(民法832条)
・ 相続回復請求権(民法884条)・・・相続権を侵害された事実を知ったときから進行します
3年
・ 医師,助産師又は薬剤師の診療,助産又は調剤に関する債権(民法170条1号)
・ 工事の設計,施工又は監理を業とする者の工事に関する債権(民法170条2号)
・ 弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関して受け取った書類についての義務に対する権利(民法171条)
・ 不法行為に基づく損害賠償請求権(民法724条)
2年
・ 弁護士,弁護士法人又は公証人の職務に関する債権※(民法172条1項)
・ 生産者,卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に関する債権(民法173条1号)
・ 自己の技能を用い,注文を受けて,物を制作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権(民法173条2号)
・ 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育,衣食又は寄宿の代価について有する債権(己法173条3号)
・ 詐害行為取消権(民法426条)・・・債権者が取消の原因を知った時から進行します
※事件を終了してからです。したがって,着手金であっても契約の時からではなく,事件終了時からカウントします。ただし,個別の項目ごとに5年間の消滅時効期間も定められています(民法172条2項)。
したがって,着手金の例でいえば,着手から5年と事件終了から2年の2つの消滅時効期間がある,と言うことになります。
1年
・ 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権(民法174条1項)
・ 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権(民法174条2項)
・ 運送賃に係る債権(民法174条3項)
・ 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権(民法174条4項)
・ 動産の損料に係る債権(民法174条5項)
・ 売主の担保責任(民法566条)・・・買主が事実を知った時から進行します
・ 遺留分減殺請求権(民法1042条)・・・減殺すべき贈与,遺贈があったことを知った時から
③ 商事消滅時効
商法522条本文は,「商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、5年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定めています。
「商行為」は,
絶対的商行為(商法501条) 誰が行っても「商行為」になるもの
営業的商行為(商法502条) 「営業として」行った場合に「商行為」になるもの
附属的商行為(商法503条) 「商人」が「営業のために」行った場合に「商行為」になるもの
の3つがあります。
そして,「商人」の定義は商法第4条になされています。
なお,一方当事者にとって「商行為」であれば,商法の規定は適用されます(商法3条1項)。
商事消滅時効と民法などの短期消滅時効との関係はどうでしょうか。
これについては,商法522条但し書きで,「他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。」と定められています。
つまり,短い方が優先されます。
商法には,これ以外にもさらに短い1年の消滅時効期間が定められています。
運送取扱人の責任(商法第566条1項)
陸上運送人の責任(商法第589条)
海上運送人の責任(商法第766条)
船舶所有者の傭船者、荷送人、荷受人に対する債権(商法第765条)
④ 個別の法律による消滅時効期間
個別の法律に消滅時効期間が定められている場合もあります。
労働基準法115条
この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する
手形法70条※
1 引受人に対する為替手形上の請求権は満期の日より3年を以て時効に罹る
2 所持人の裏書人及振出人に対する請求権は適法の時期に作らしめたる拒絶証書の日附より、無費用償還文句ある場合に於ては満期の日より1年を以て時効に罹る
3 裏書人の他の裏書人及振出人に対する請求権は其の裏書人が手形の受戻を為したる日又は其の者が訴を受けたる日より6月を以て時効に罹る
※正式にはカナ表記
地方自治法第236条
金銭給付を目的とする普通地方公共団体の権利は5年
製造物責任法第5条
不法行為に基づく損害賠償請求と同じく,損害及び賠償義務者を知った時から3年
小切手法第58条
支払保証をした支払人に対する小切手上の請求権は1年
小切手法第51条
小切手所持人・裏書人の,他の裏書人・振出人その他の債務者に対する遡求権は6月
会計法30条
金銭の給付を目的とする国の権利※,国に対する金銭の給付を目的とする権利は5年(ただし他の法律に規定がない場合に限る)
※金銭の給付を目的とする国の権利の時効消滅には援用不要(会計法31条)
など
次回は,これらの消滅時効を完成させてしまわないための方法(時効の中断)について記事にしたいと思います。
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