2018年7月相続法改正に関する記事です。
2018年7月相続法改正について
今回は、「配偶者短期居住権の新設」について見ていきましょう。
2020年4月1日から施行となる改正です。
1 条文
(配偶者短期居住権)
第1037条
1 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合:遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合:第3項の申入れの日から六箇月を経過する日2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。
2 内容
条文は一見複雑な構造をしているようですが、「配偶者短期居住権」は、配偶者に先立たれた相続人を保護する制度の一つです。
その名のとおり、被相続人の配偶者が、ある時点まで、被相続人の所有していた建物に居住し続けることができる権利ということになります。
(1)配偶者短期居住権の認められる条件
① 被相続人の配偶者であること(ただし書きの場合を除く)
② 相続開始の時点で被相続人の財産に属した建物に無償で居住していたこと
権利を認められるのは、あくまでも法律婚による配偶者ですので、内縁関係の夫婦の場合には、認められません。
また、相続開始の時点で、実際にその建物に居住している必要があります。
一方、相続開始まで被相続人と同居していたことは、要件にはなっていません。
なお、建物の一部に居住していた場合にも、その一部について認められます。
(2)配偶者短期居住権の内容
以上の条件を満たした被相続人の配偶者には、次のような範囲で、引き続きその建物を無償で使用し続けることができる権利が認められます。
また、配偶者短期居住権が認められる期間は、当該建物を相続する人(居住建物取得者)が決まった場合でも、居住建物取得者は、その配偶者の無償での使用を妨
げることはできません。
さらには、配偶者短期居住権を知らない第三者に譲渡されてしまった場合でも、配偶者短期居住権は保護されることになります。
① 遺産分割を行うべき場合
次のアまたはイのいずれかのうち、遅い日まで
ア 遺産分割が整い配偶者以外の相続人が当該建物を相続することが決まったとき
イ 相続の開始から6か月を経過したとき
すなわち、相続開始から最低6か月は、配偶者短期居住権が認められますし、遺産分割が整わない間はいつまでも配偶者短期居住権が認められ、無償での使用を続けることができる、ということになります。
改正前の民法でも、最高裁判例(最判平成8年12月17日)により、相続人である配偶者が被相続人の許諾を得て被相続人所有の建物に同居していた場合には、被相続人と相続人である配偶者との間で、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される、と解されてきました。
これにより、この要件に該当する限り、相続人である配偶者は、遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権が確保されることとなりましたが、あくまでも意思の推定であるため、被相続人がそれとは違う意思を示しているときには、認められる余地はありませんでした。
今回の改正は、これまでの解釈を拡張したものと言えます。
② 遺産分割以外の場合
例えば、当該建物について、被相続人の配偶者以外の者に相続させる、あるいは遺贈するという遺言があった場合などです。
当該建物を所有することになった居住建物取得者が申入れ(配偶者短期居住権の消滅の申入れ)をしてから6か月間は、配偶者居住権が継続します。
これは、前述のこれまでの解釈では認められなかった、被相続人の意思に反する場合にも、配偶者の保護を拡大したものと言えます。
3 配偶者「短期」居住権
配偶者短期居住権は、あくまでも一時的な権利です。
配偶者であるからと言って、無条件に被相続人名義の建物に住み続けることが認められる権利ではありません。
配偶者がその建物に住み続けるためには、
■ 被相続人が、配偶者の所有権または配偶者居住権を認める遺言を残すこと
または
■ 遺産分割により、配偶者が所有権または配偶者居住権を取得すること
が必要となってきます。
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