2018年6月4日月曜日

平成30年6月1日 最高裁判決 その1

平成30年6月1日に,労使問題に関する重要な2件の最高裁判決が出ました。

いずれも,正規労働者と非正規労働者の待遇の差が認められるかどうか,という労働者側にとっても使用者側にとっても,重要な問題に関する判断です。


① 平成28年(受)第2099号 未払賃金等支払請求事件
  判決へのリンク

② 平成29年(受)第442号 地位確認等請求事件
  判決へのリンク



この記事では,1件目の判決を紹介します。

労働契約法第20条は次のような規定になっています。
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
すなわち「有期契約労働者と無期契約労働者との契約条件の相違は,不合理と認められるものであってはならない」と規定されていることから,有期契約労働の労働条件のうち,不合理と判断される労働条件の違いは無効となると考えられます。


それでは,不合理な相違がある場合には,有期労働契約者の労働条件は,無期労働契約の条件にそろえられることになるのでしょうか。


この点について,最高裁は,
「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。」
と判示しました。

この判例の事件は,契約社員(有期雇用)と正社員(無期雇用)で,それぞれ異なる就業規則が適用されることで,差が生じているというものでした。
仮に,これが不合理な差が生じていると認められる場合でも,契約社員に正社員と同じ就業規則を適用すべき,ということにはならない,ということです。
不合理な差が生じていても,正社員の労働条件を根拠として差額賃金を請求するという訴えは認められないということです。



それでは,不法行為に基づく損害賠償請求はどうでしょうか。

この判断に際し,最高裁は,「期間の定めがあることにより」とは,
「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。」
「不合理と認められるもの」とは,
「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。」
と判示しました。


この判例の事例は,バス乗務員である正社員には皆勤手当を支給するのに,契約社員は皆勤しても皆勤手当がないものでした。
最高裁は,これを不合理な契約条件の相違であると判断し,高裁判決を一部破棄しました。
事件は,高等裁判所に差し戻されて,不合理な契約条件の相違により契約社員がこうむった損害について,審理のやり直しがされることになります。


最近,同一労働同一賃金の原則が言われています。
これに関して最高裁が判断を示した一つの例と言うことができます。

なお,同一労働同一賃金については,たとえば男女による差別的取扱の禁止(労働基準法4条),国籍・信条又は社会的身分を理由とした差別的取扱の禁止(同3条)などが定められていますが,非正規労働者に対する差別的取扱の禁止は,せいぜい努力義務程度で,はっきり禁止されてはいません。


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