2018年7月相続法改正に関する記事です。
2018年7月相続法改正について
今回は、「相続の効力等に関する見直し」について見ていきましょう。
2019年7月1日から施行となった改正です。
1 条文
民法899条の21 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
民法1014条
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金の契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 内容
(1)これまでの考え方
これまでの民法では、遺言や遺産分割による権利の承継は絶対的な効力を持つため、第三者にその効力を主張するのに、あらかじめ特別な対策をしておく必要はないとされていました。
例えば、不動産の相続について次のような例を考えます。
Aが亡くなり、法定相続人は配偶者Pが50%、子Qが25%、子Yが25%です。
P、QおよびYの3人で遺産分割の協議を行った結果、この不動産はPが単独で相続することになりました。
しかし、その相続の登記は行っていませんでした。
さて、子Yに対して貸金債権を持つ債権者Xが居ます。
Xは、Aが亡くなったことを知り、Aの不動産のうち25%の持分をYが相続したものと考え、その持分を差押えようとしました。
ところが、Pはこの不動産は自分が単独で相続したものであるから、Xの差押えは認められない、と主張します。
民法の建前上は、Pの主張の方が正しいということになります。
なお、Aが「不動産をPに相続させる」という遺言を残した場合でも同様です。
不動産の場合、第三者に対して自分の権利を公示する機能(対抗要件)は、不動産登記を備えることとされています。
しかし、相続の場合、本来は、対抗要件の問題にはなりません。
相続は、被相続人の権利義務を包括的に承継する手続であるから、被相続人の登記があること=相続した人が対抗要件を備えていること、と考えられたからです。
これでは、上記の例における債権者Xのように、登記の内容を前提にして取引に入った第三者の安全を害する事になりかねません。
手続的に、迅速かつ秘密裏に行わなければならないような保全の手続などと、被相続人のままとなっている遺産の相続関係を調査することは両立しないでしょう。
このような観点から、これまで判例により以下のような修正が加えられて来ましたが、不十分なものでした。
判例により、法定相続分と異なる遺産分割をした場合、また遺贈を受けた場合は、第三者との関係では、対抗要件を備えなければ対抗できないとされました。
一方で、遺言による相続分の指定については、包括承継であるから対抗要件を備えていなくても、第三者に対抗できるとされました。
前者は、売買や贈与などと同じ特定承継としての性質が強く、後者は、まぎれもない包括承継であるという考えが、違いに反映されたのでしょう。
このように扱いに違いが生じてしまうため、登記等による公示を信じて取引に入った第三者の利益を、ますます害する状態になっていたとも言えます。
(2)改正法
以上のような観点から、今回の改正では、対抗要件の効果を相続という包括承継の場面まで拡張することになりました。
これまでの判例による修正に加え、「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、」とすることで、遺言による相続の場合でも、遺言に従って登記等の対抗要件を具備していなければ、第三者に対抗することはできないとされたのです(899条の2第1項)。
また、債権については、法定相続分を超えて承継した相続人が、債務者に対して通知したときに、相続人の全員から通知があったものとして、第三者にも対抗要件を備えるものとされました。
債権譲渡における対抗要件は、譲渡債権者から債務者への通知とされています。
(債務者に通知することで、債務者だけでなく第三者に対しても対抗することができるのです。)
債権譲渡の場合と同じであるとすれば、本来は、被相続人の立場を承継する相続人全員からの通知が必要なはずですが、改正法では、法定相続分を超えて承継した相続人単独による通知で足りるとされています。
法定相続分を承継しなかった相続人が、これらの通知に協力しない場合が考えられることから、修正が加えられています(899条の2第2項)。
なお、遺言執行者は、これらの対抗要件具備の手続を行うことができます(1014条2項)。
不動産の相続の場面において、「相続させる」遺言の場合、遺言執行者は相続登記の申請ができないとされていました。
(遺贈の場合には、登記申請ができました。)
今回の改正では、遺言執行者の権限が強化され、これらの登記申請ができるようになりました。
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