2018年11月30日金曜日

建物老朽化に伴う明渡しの請求

建物を他人に貸しているが、その建物が老朽化している、という場合がよくあります。

老朽化して一部使えなくなったような建物では、賃借人に対して建物の使用収益をさせるという目的を果たせない可能性が高くなり、賃料減額の原因にもなります。
また、建物の老朽化の影響で、第三者に損害を及ぼした場合、所有者である賃貸人が責任を負う可能性が高くなります。
老朽化した建物を放置することは、賃貸人にとってリスクの大きいことと言えます。

建物に賃借人がいなければ、建物を取り壊して新たな建物を建てたり別の用途で土地を利用したり、ということが考えられます。
また、老朽化した建物が建った状態でも、土地に価値があれば、土地と建物をセットで売却できる可能性も高いでしょう。(買った側で建物を取り壊す費用を負担することを考慮した売値になるでしょうが。)
理論的には賃借人がいる状態であっても、建物ごと土地を売却することはできますが、そのような物件にはまず買い手はつかないでしょう。

借りている人(賃借人)からは修繕の要求も来ているが修繕には多額の費用がかかりそうだ、というような場合、建物を貸している側(賃貸人)から見れば、賃借人に建物を出て行って貰うことを考えると思います。

ところが、建物が老朽化しているからといって、簡単に賃貸借契約の解除が認められるわけではありません。
判例では、賃貸借の目的物が全部滅失するなどにより賃借物の目的物の全部の使用収益をすることができなくなった場合、賃貸借契約の目的を達することができないことから、賃貸借契約は当然に終了する、とされています。
改正民法では、これが条文として取り入れられます(改正後民法616条の2)。
修繕に多額の費用がかかる場合には、滅失と同等と認められる可能性はありますが、確実とは言いがたいでしょう。

では、賃借人に出て行って貰う方法はないのでしょうか。

このような場合には、期間の定めのある契約であれば期間満了6か月以上前までに更新しない旨の通知(借地借家法26条1項)を、期間の定めのない契約(期間の定めのある契約が更新された後の契約であっても同じ)であれば6か月後に終了する旨の通知(借地借家法27条1項)を、賃借人に行うことで、契約を終了させることができる可能性があります。

ただし、これらの通知により契約終了の効果が認められるためには、正当の事由が存在することが必要とされています。
借地借家法28条は、正当の事由の例示として、「建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」としています。

例えば、修繕に多額の費用がかかるといった事情は、建物の現況に該当するでしょう。
もっとも多額に費用がかかることだけではなく、そこに至った事情、例えばこれだけ費用がかかる状態に毀損してしまったのはどうしてか、といった事情なども総合的に考慮することになりますので、やはり財産上の給付の申出(いわゆる立ち退き料)などがどの程度なされているか、などといった事情が大きな重みを持つことになります。

このように、最終的には正当事由の存否が問題となることが多く、また、それは賃貸人と賃借人の交渉の場面でもありますが多分に法律問題を含んでいるため、下手に交渉を進めていることが結果的に非常な不利益につながる可能性も否定できません。
また交渉が決裂した場合には、裁判手続が必要になってくるでしょう。
簡単なことではありませんので、弁護士を代理人に立てた上での交渉をお勧めします。



《参照条文》
民法606条
1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。

賃料の減額について
●民法611条
1 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
なお、
●借地借家法32条
1 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。


賃貸借契約の解約について
●民法617条
1 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
②建物の賃貸借 3箇月
●民法618条
事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。

借地借家法による修正
26条
1 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
27条
1 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。
28条
建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。


土地を人にかして、その人が建物を建てて住んでいるという場合にも、建物の老朽化は問題となることがありますが、それはまた別の機会に。




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2018年11月6日火曜日

借地権譲渡と地主の承諾

家を建てる際には、もちろん土地を買ってその上に建物を建てるという方法もありますが、地主から土地を借り、その上に家を建てるということもあります。
地主に対して主張できる、その土地を使用する権限を借地権と言います。
なお、親子関係などに多い無償の使用貸借もありますが、ここでは省略します。

借地権には地上権と賃借権の2種類があります。
地上権は「物権」の一つであり、非常に強力な権利ですが、多くの借地権は賃借権でしょう。
ここでは賃借権としての借地権について書くことにします。

賃借権自体も登記することはできますが、登記には地主の協力が必要です。
通常は、土地上の建物に借地人名義の登記を備えることで、第三者への対抗手段となります。

第三者への対抗要件を備えたということは、たとえば、地主が売買などによりかわった場合であっても、新しい地主に賃借権を主張できるということです。
これにより、新しい地主から、この土地は自分のものになったから出ていけ、とは言われないことになります。

さて、第三者への対抗力のある土地賃借権とはいえ、地主本人は契約の当事者ですから、建物を第三者へ売ったからといって、自動的に賃借権も第三者に移る、というわけではありません。
これは、賃借権自体を登記したときでも同じです。

賃借権の譲渡・転貸にあたっては、地主の承諾が必要とされています(民法612条)。
地主の立場では、土地の借り主が誰であるかは重要ですので、勝手に処分されては困りますね。

地主の承諾が得られない場合、地主の承諾に代わる許可を裁判所から受ける制度があります(借地借家法19条1項)。
条件として、「第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないとき」とされています。
また、地主の権利を不当に侵害しないように、許可に当たっては「当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。」とされています。
さらに、地主側では、どうしても賃借人の交代を認めたくないときには、対抗的に建物を買い取ることも可能です(同3項)。


ややこしいのは、相続に伴う賃借権の移転に際して、地主の承諾が必要かどうか、という点です。

一般的には相続による包括承継の場合には、地主の承諾は不要です。
特に契約書を書き換えたりする必要もありません。

法定相続分にしたがって相続した場合はもちろん、法定相続人間での遺産分割により相続することになった場合も、賃借権を引き継ぐのに地主の承諾は不要です。
また、死因贈与や遺贈で建物(と土地賃借権)を引き継ぐことになった人が法定相続人であれば、地主の承諾は不要とされています。
この場合、地主としては、家の持ち主が代わってしまっても、それは受け入れざるを得ません。

一方、相続手続においても地主の承諾が必要な場合もあります。
死因贈与や遺贈によって財産を得る人が相続人以外であれば、地主の承諾が必要になってきます。


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