2017年6月30日金曜日

性犯罪に関する刑法改正について

性犯罪に関する刑法の改正法が平成29年6月13日に成立しました。
この改正法は,平成29年6月23日には交付されており,7月13日に施行されます。
110年ぶりの改正などと言われていますが,どのように変わったのでしょうか。
重要な部分を挙げていきましょう。



1 強制性交等罪(刑法177条)

「強姦罪」とされていた罪が改正により「強制性交等罪」となりました。

① 客体(被害者)の範囲の拡大

(改正前)13歳以上の女子

(改正後)13歳以上の者

従来は女性に対して行う姦淫行為のみを罰していましたが,男性も被害者となりうることになりました。

② 行為態様の拡大

(改正前)姦淫した者は

(改正後)性交,肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は

従来,姦淫=性交に限られていたものの,同程度に被害者の性的自由の侵害甚だしいと考えられる行為態様につき,条文上は同程度に重い刑罰で臨むことになりました。
もっとも,行為態様によって量刑判断が影響を受けることはありうるでしょう。

③ 厳罰化

(改正前)強姦罪:3年以上の有期懲役

(改正後)強制性交等罪:5年以上の有期懲役

強盗罪が5年以上の有期懲役なのに,強姦罪が3年以上の有期懲役であるのは,バランスがおかしいと考えられていました。

強制性交等致死傷についても,「無期又は5年以上の懲役」から「無期又は6年以上の懲役」に,量刑が引き上げられています(刑法181条2項)。

なお,強制わいせつの量刑は「6月以上10年以下の懲役」,強制わいせつ致死傷の量刑は「無期又は3年以上の懲役」で,変更はありません(刑法176条,181条1項)。



2 監護者わいせつ及び監護者性交等(刑法179条)

13歳未満の被害者に対してわいせつな行為,性交等を行った場合は,暴行又は脅迫を用いなくても,強制わいせつ罪,強制性交等罪で同様に処罰されることになっています。
これは,旧強制わいせつ罪,旧強姦罪に対応しています。

これに加え,18歳未満の被害者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて,わいせつな行為・性交等を行った場合も,同様に処罰されることになりました。



3 非親告罪に(刑法旧180条)

従来は,強制わいせつ,強姦,準強制わいせつ及び準強姦は,親告罪であり,被害者等による告訴がなければ公訴を提起することが出来ませんでした。
これらの罪については,刑事裁判になる前に,示談を成立させて告訴を取り消す合意をしてしまえば,検察官としては公訴提起出来なかったのですが,改正法により,告訴取消ならば裁判断念,という関係には無くなりました。

ただし,被害者の保護につながるのかという点では,疑問があることは各所から指摘されています。
加害者は,示談をしても公訴提起されてしまうのであれば,示談を急ぐという動機を失いかねないため,被害者が被害弁償を受ける機会を狭めてしまう可能性があるからです。

これに伴い,元々非親告罪であるという点と,懲役刑の下限でのみ区別されていた集団強姦等罪(刑法旧178条の2)が,廃止されました。
有期懲役刑の範囲内で量刑を考慮すれば良いため,独立の罪として定めておく必要はないからです。



4 強盗・強制性交等及び同致死罪の整理(刑法241条)

従来は,「強盗が女子を強姦したとき」や「よって女子を死亡させたとき」といった単純な条文になっていましたが,強姦と強盗どちらかが未遂の場合はどうなるのか,などといった解釈上の諸問題を含んでいました。
これらを解決するために,条文の整理が行われました。

強盗が既遂,強制性交等が既遂であれば,本罪が成立することは当然ですが,どちらかが未遂であっても成立します(1項)。
強盗が未遂,強制性交等も未遂であった場合には,本罪について未遂減刑が可能になります(2項本文)。
強盗が未遂,強制性交等も未遂で,かつ,どちらかの犯罪を自己の意思により中止した場合(中止未遂)は,必要的に減刑が行われます(2項ただし書き)。



その他は,関連する刑法および周辺の法律について,併せて改正するものとなっています。


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2017年6月13日火曜日

法定相続情報証明制度が始まりました

平成29年5月29日から,全国の法務局において,各種手続に利用することができる「法定相続情報証明制度」が始まりました。

1 法定相続情報証明制度とは

法務局に戸籍・除籍謄本等の束を提出し,併せて相続関係を一覧にした図を提出すれば,登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付してもらえる,という制度です。

この認証文付一覧図を,相続手続を取り扱う各種窓口に提出することで,これまで毎回戸籍・除籍謄本等の束を提出する必要があった手続の煩雑さを軽減することが出来ます。

2 法定相続情報証明制度の利用

まず想定されているのは,不動産の相続登記の場面です。
不動産について,相続の登記がなされず放置されているケースは多数あり,いろいろと社会的問題になっています。
我々弁護士も,依頼を受けて不動産登記簿を調べたら,実態とは異なりはるか昔に亡くなった人が所有権者として登記されていることも少なくなく,問題の解決に想像以上の労力と費用がかかることがあります。
このような事態にならずに,相続登記を積極的に促す狙いがあるのでしょう。

それ以外にも,相続が発生すれば,いろいろな窓口での手続が必要になります。

金融機関においても,徐々に利用が広がっていく見込みです。
すでに利用可能である旨公表している金融機関も存在します。

裁判手続ではどうでしょうか。
相続関係の事件が調停や訴訟などの裁判手続になることが多く,これらのために,戸籍・除籍類の束を裁判所に出す必要があります。
今のところ,残念ながら裁判所が対応するという話は聞きません。

(6月16日追記)
一部の家庭裁判所で法定相続情報一覧図の利用を受け付けるようになったという情報がでました。
各裁判所が,徐々に対応するようになっていくものと思われます。
(追記以上)



3 法定相続証明制度により相続手続は簡単になるのか

戸籍・除籍の束一式を抱えて,窓口ごとに相続関係を説明したり,場合によっては手続きごとに戸籍・除籍の一式を取得し直さなければならない羽目になったり,といった非効率的な運用は軽減されるので,この点では歓迎すべき制度ですね。

もっとも,戸籍・除籍一式の取り寄せを行わなければならないという点では,一番面倒な部分はクリアされていませんね。
もちろん,あくまでも法定相続関係の証明の負担が軽くなるだけであるため,相続にまつわるもめ事・紛争を解決するのには,役に立つものではありません。
また,すでに長年放置された不動産登記の問題などは,個別で解決していくしか仕方が無いので,この制度が出来たから解決につながる,というわけではありません。

少し手続の煩雑さが軽減されたことは歓迎すべきでしょうが,相続手続には,まだまだ自身で処理するのが難しい問題はたくさんあります。
このような場合には,必ず専門家への相談を行うようにして下さい。

相続人間でもめているときは弁護士に。
税金関係の手続は税理士に。
不動産登記の手続は司法書士に。
などといった具合です。
(私に相談いただければ,各専門家をご紹介することも可能ですし,もめごとの解決後の諸手続についてはご自身の知り合いの専門家に依頼する,という方針でもお引き受けいたします。)

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