2019年7月27日土曜日

遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲

2018年7月相続法改正に関する記事です。

2018年7月相続法改正について

今回は、「 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲」について見ていきましょう。

2019年7月1日から施行となった改正です。


1 条文

第906条の2
1 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。


2 条文の意味

被相続人が死亡して遺産分割が始まる前に、相続人の一人(または数人)が、被相続人の財産を処分してしまった場合、処分された財産も遺産として扱う、という条文です。

例えば、相続人の一人が被相続人の死亡後、自分が口座を管理していてキャッシュカードの暗証番号等を知っていたことを良いことに、被相続人の預金を下ろして自分のものとしてしまった場合、その預金は遺産であったことを前提に、遺産分割を行うということになります。
これは、一見当たり前のように思えますが、これまではどうだったのでしょうか。

これまでは、遺産分割の対象は、分割時に存在している遺産でした。
そのため、それ以前に相続人の一人(または数人)が処分してしまった財産については、損害賠償請求ないし不当利得返還請求といった方法で、別途回復を図る必要があったのです。

しかし、これでは何重にも手続が必要になってきますし、抜け駆けした相続人が無資力になるリスクを他の相続人が負うことにもなります。
このようなやり方は不当であるため、今般の改正により条文が加えられました。


3 要件

① 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であること

あくまでも相続開始後の財産処分が対象となります。
被相続人の生前、相続人が被相続人の預金口座から勝手に預金を抜いて自分のものとしていた、というような場合は、この条文の対象ではありません。

② 共同相続人全員の同意があること

相続開始後の遺産に属する財産を処分した相続人以外の共同相続人全員の同意があることが、この条文を適用する条件となります。
財産処分をしてしまった相続人の同意は必要ありません(2項)。


4 効果

処分された財産も、遺産分割時に遺産として存在するものとして扱うことになります。


5 具体例

亡くなったAには、500万円の預貯金、1000万円の不動産、500万円のその他の財産(合計2000万円)があった。
Aの法定相続人は、配偶者Xと、子のY・Zの3人である。
Yは生前Aの預貯金口座の管理を行っていたため、Aが亡くなった後、A名義の預金口座から500万円全額を下ろして自分の口座に移してしまった。
X、Y及びZが遺産分割の協議を行うなかで、この事実が判明した。

この場合、XとZが同意する限り、Yが勝手に下ろして自分のものとしてしまった500万円の預貯金は、Aの遺産として存在するものとして扱うことになります。

すると、法定相続分で遺産分割を行う場合、Xは1000万円、Yは500万円、Zは500万円の相続分があることになります。
このうち、Yは500万円をすでに受け取っていることになりますので、実際に残っている1500万円分の遺産を、X1000万・Z500万円の割合で分けることになります。

実際には、上の例のように残った財産が不動産と預貯金以外の財産という場合、どのように分けるのかという問題が、この条文だけで解決する問題ではありません。
流動性の高い財産である預貯金をYが取ったままにしておいて良いのかとか、この例以上にYが財産をたくさん処分してしまった場合、Yはどのように返すことになるのかも、条文からは解決しません。
しかし、少なくとも改正前のように、不当利得返還請求等の二度手間をかける必要はなく、裁判所は審判によりYに遺産を返すよう命じることも可能になったと考えることができるのではないかと思われます。




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