2018年7月相続法改正について
今回は、「遺留分制度に関する見直し」について見ていきましょう。
2019年7月1日から施行となった改正です。
遺留分に関する規定は、後述のように内容が変更になったほか、もともとの条文(1028条以下)から条数がずれて、新しい条文では1042条以下に規定されています。
(遺留分の帰属及びその割合)
第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
(遺留分を算定するための財産の価額)
第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第1044条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
第1045条 負担付贈与がされた場合における第1043条第1項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。
(遺留分侵害額の請求)
第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し、これに第3号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
(受遺者又は受贈者の負担額)
第1047条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
2 第904条、第1043条第2項及び第1045条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
3 前条第1項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第1048条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
(遺留分の放棄)
第1049条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
2 変更のポイント① 遺留分によって生じる権利が金銭債権となった
遺留分減殺請求 ⇒ 遺留分侵害額請求
これまで、法定相続人の遺留分を超える遺贈等が行われた場合、遺留分を侵害された相続人は、受遺者等に対して、「遺留分減殺請求」を行うことができました。
しかし、遺留分を超えた遺贈等の対象が例えば不動産であった場合、遺留分減殺請求権の行使により、その不動産については、どうしても受遺者等と遺留分減殺請求を行った相続人との共有関係が生じてしまいました。
共有状態になることにより、その財産をめぐる権利関係が複雑化し、ただでさえ遺留分減殺請求により対立しがちな当事者間には、解決すべき困難な問題が残ってしまうことになります。
また、「この財産」を「この人」に遺したいと思って遺言を作成した被相続人の気持ちにも添えない結果となってしまう可能性が高くなります。(共有関係を解消するために、結局その財産を売却処分せざるを得ない場合など。)
従来の遺留分減殺請求で生じてしまう問題を解決するために、遺留分によって生じる権利は、金銭債権となりました。
どういうことかと言うと、例えば不動産が一人に遺贈されてしまったために、ある相続人の遺留分が侵害された場合、その相続人が請求できるのは、不動産の持分ではなく、侵害された遺留分の価値に相当する金銭、ということになります。
この請求権は、遺留分侵害額請求権という名称になります(1046条)。
3 改正のポイント② 遺留分侵害額請求に応ずる場合の期限の猶予
遺留分侵害額請求という金銭債権の請求に代わったことにより、請求される側は、手元に金銭がなければその請求に応えられないという事態が起こり得ます。
もちろん、当事者間で分割の合意が出来ればそれで構わないでしょう。
しかし、折り合いがつかない場合は、どうでしょうか。
このような場合でも、遺留分侵害額請求への支払いの全部又は一部について、裁判所が期限の猶予を与えることが出来るようになりました(1047条5項)。
猶予がない場合には遺贈等された遺産を結局処分せざるをえないといったケースでも、一部または全部の支払いを分割等にすることにより、処分せずにすむ可能性が高まることになります。
4 改正のポイント③ 遺留分侵害額算定における生前贈与分の扱いの変更
遺留分が侵害されているかどうかの判断に際して、問題となる生前贈与は死亡1年以内のものであるという条文になっていました。
もっとも、判例により、法定相続人に対する生前贈与のうち、特別受益に当たる贈与については(持ち戻し免除の有無にかかわらず)、死亡1年以上前のものでも、遺留分算定の基礎となることが確認されていました。
すなわち、法定相続人に対する生前贈与については、特別受益に当たる限り、無制限に遺留分侵害の算定に考慮されることになっていたのです。
今回の改正により、法定相続人に対する生前贈与については、死亡10年前より以降のものだけが遺留分侵害額の算定の基礎となることが、規定されました(1044条3項)。
これにより、古い生前贈与が問題とならなくなる結果、スムーズな事業承継を行うため早い段階から準備しておけば、後々の争いを避けられるというような効果も期待できそうです。
以上が、遺留分制度に関する見直しの概要となります。
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