2019年7月20日土曜日

配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示推定規定)

2018年7月相続法改正に関する記事です。

2018年7月相続法改正について

今回は、配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示推定規定)について見ていきましょう。

2019年7月1日から施行となった改正です。

1 条文

民法903条4項
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。


2 改正のポイント

民法903条4項は、配偶者保護のために従来の条文に加えられた条文です。

(1)原則

共同相続人が、生前贈与または遺贈により被相続人から財産を受け取った場合、それは「特別受益」といい、相続の際に考慮するのが原則となります(民法903条1項)。
受取り済みの特別受益相当額を、分割対象の遺産に戻し(持ち戻し)て、遺産分割を行い、実際には特別受益を受けた相続人(特別受益者)は、受取済みの特別受益相当額を差し引いた遺産を相続することになります。

具体例として、被相続人Aの遺産が6000万、相続人が妻X(相続分1/2)、子Y(相続分1/4)、子Z(相続分1/4)で、妻XがAから生前2000万円相当の不動産を受け取っていた場合を考えます。
Aが既に受け取っていた不動産の価値2000万円を遺産に持ち戻すと、分割の基準は
6000万+2000万=8000万となります。
これを法定相続分で分割すると、X4000万、Y2000万、Z2000万となります。
しかし、Xはこのうち2000万円を既に受取済みとして、実際に相続できるのは、
4000万ー2000万=2000万となります。

すでに特別受益で貰い過ぎていることが判明した場合には、特別受益者は遺産からは相続することが出来ません(民法903条2項)。
最も、貰いすぎたものを返還する必要までは無いとされています。
その場合に、特別受益者以外がどのように分割するかについては、争いがありますが、今回は省略します。

(2)持ち戻しの免除

しかし、特別受益の持ち戻しについては、被相続人の意思により免除することが出来ます(民法903条3項)。

したがって、被相続人が遺言などで、特別受益については持ち戻しをする必要は無い、と定めておけば、903条1項のような考えをせずに済むことになります。

先ほどの具体例によれば、持ち戻しの免除の意思表示をすることにより、
X3000万、Y1500万、Z1500万という分割がされることになります。
Xは贈与、遺贈された部分とあわせると、5000万円相当の財産をAから引き継ぐことができました。

※ ただし、遺留分の計算においては、特別受益の持ち戻し免除の意思表示があったとしても、考慮されることになります。
したがって、例えば、家督相続のように全ての財産を長男に生前贈与してしまい、遺言などで特別受益持ち戻し免除の意思表示をしたとしても、配偶者やその他の兄弟は、遺留分侵害額の請求をすることができることになります。

(3)持ち戻し免除の推定

これが、今回改正により加わった部分です。

一定の要件を満たす相続人に対する特定の特別受益については、被相続人の持ち戻し免除の意思が推定される、というものです。

自分が亡き後も夫または妻が住居に困らないようにという被相続人の気持ちに沿った規定であるとは言えますが、夫婦であれば何でも持ち戻し免除が認められるというわけではありません。

対象となるのは、
 婚姻期間20年以上の夫婦で、一方がもう一方に贈与、遺贈を行うこと。
② 遺贈、贈与の対象が居住用の建物またはその敷地であること。
となります。

したがって、先ほどの具体例によれば、XとAが20年以上連れ添った夫婦であれば、被相続人Xが特別受益持ち戻し免除の意思表示を行っていなくても、その意思が推定されるため、相続開始時の遺産6000万円を基準として分割を行い、X3000万、Y1500万、Z1500万という結果が得られます。

あくまでも、居住用不動産の贈与、遺贈に限るということには注意が必要です。
先ほどの例で、Xの特別受益が2000万円の預金であった場合、Aがはっきりと持ち戻し免除の意思表示を行っておかなければ、持ち戻しすることが必要になってしまいます。

また、20年の婚姻期間ですが、贈与・遺贈の時点で判断されることになります。
したがって、20年未満で死別となった夫婦の場合はもちろん、20年以上婚姻期間が続いている夫婦であっても、生前贈与の時期が婚姻20年に達していない場合には、この推定規定は適用されません。
その意味でも、持ち戻し免除の意思表示は、はっきり行っておいた方が良いでしょう。

20年という期間は、贈与税の配偶者控除(相続税法21条の6)の規定に対応し、配偶者に対する生前贈与をしやすくするという意図が含まれています。


今回の相続法改正のポイントとして、配偶者保護の強化が図られていますが、この改正もその一つと言えるでしょう。



なお、特別受益は、不動産の贈与など比較的分かりやすいものもありますが、実際に争いになるようなケースでは、かなり専門的な判断が必要になってきます。
このような場合は、ぜひとも弁護士にご相談下さい。



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