今回は,私の取り扱った事例をベースに,アレンジを加えながら,紹介しましょう。
最初に相談に来られたのは,ある男性の息子さんでした。
その息子さんは,成年後見の申立のことは,念頭にはありませんでした。
話をきくと,お父さんの財産を,お兄さんがすべて一手に把握していて困っている,という話でした。
実際には,その息子さん(弟)がお父さんの面倒をみているにも関わらず,預金通帳などをすべてお兄さんが握っていて困っている,というのです。
弟の希望としては,お兄さんを何とかしてほしい,という話でした。
しかし,この登場人物の中で,権利を侵害されている可能性があるのは誰でしょう。
弟ではなく,お父さんです。
お父さんから依頼を受けて,兄に対してなんらかの請求を行っていくことは可能でしょうが,弟からの依頼では,そのような請求をするわけには行きません。
そこで,次にお父さんからそのような依頼を受けることが可能な状態であるか,ということを検討しました。
第一,兄に通帳を全部預けるという理不尽なことも,強引に行ったというよりも,お父さんが半ば依頼したかのような実態がありました。
しかし,兄は,お父さんから財産管理を頼まれて適切に管理・支出しているわけではないのですが,お父さんには,お金の勘定をするだけの能力も残っておらず,現状をよくわかっていないようでした。
このように家族に財産を一手に握られてしまっているような方の多くは,判断能力に衰えが生じていることがほとんどです。
この事例においても,お父さんは,認知症に加え,その他の病気によっても,判断能力が著しく衰えているらしい,ということがわかりました。
そこで,成年後見申立を検討することにしました。
幸いにも弟がお父さんの面倒を見ているので,お父さんの能力を示す診断書などの必要な資料はすぐに集まりました。
一方,財産関係は兄がすべて把握してしまっており,ほとんどが不明のままでした。
しかし,財産関係に不明点があるからといって,成年後見の申立ができない,という訳ではありません。
もちろん,財産関係に不明点が多ければ,就任した後見人は財産目録の作成により苦労するでしょうが,後見人としての立場は申立人よりもはるかに強いのですから,わからない部分は,後見人が調査すれば良いのです。
さて,この場合,成年後見人としてふさわしいのは誰でしょうか。
普段から面倒を見ている弟でしょうか。
そうではありません。
親族間に対立のあるケースにおいては,親族の一人が後見人に就任することは望ましくありません。
対立のないケースであっても,親族を後見人に就任させて良いかどうかは,慎重に判断されます。
この事例においては,弟も後見人にはなれません。
そして,弟から相談を受けて,お父さんの成年後見開始申立をすることになった私も,後見人にはなれません。
結局,裁判所から,ほかの弁護士が,専門職後見人として選任されました。
後見人が,お父さんの財産の保全や監護に関する適切な支出などを管理しつつ,弟が面倒を見る形で,協力していく,ということになりました。
この事例では,兄は,お父さんの成年後見を開始させまいと,お父さんに対して必死に働きかけていましたが,無駄でした。
結局,お父さんの預金通帳等は,お兄さんから取り上げられ,専門職後見人により適切に管理されることになりました。
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