2014年7月24日木曜日

保釈手続について

保釈という言葉を聞いたことはあると思います。

保釈は,勾留されている被告人について,判決による判断を待たずに身柄を解放する手続きであり,重要です。
「被告人」について認められる手続きですので,保釈が認められるのは,起訴された後,ということになります。



(1)3つの保釈手続

保釈には3つの種類があります。
権利保釈,裁量保釈,義務的保釈です。

権利保釈とは,要件を満たす場合には,必ず保釈を許さなければならない,という保釈であり,刑事訴訟法89条に定められています。

刑事訴訟法89条
保釈の請求があったときは次の場合を除いては、これを許さなければならない。
① 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
③ 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑤ 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑥ 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

①②③や⑥については,該当するかどうかが割合はっきりしていますが,④⑤については問題となることが多く,罪証隠滅のおそれや,証人等威迫のおそれを原因として,保釈請求が却下される場合も,少なくありません。

一方,重大事件の被告人や,一定以上の前科がある被告人の場合には,それだけで権利保釈は認められない,ということになってしまいます。
このような場合でも,絶対に保釈が認められないわけではありません。

刑事訴訟法90条には,裁量保釈について定めています。

刑事訴訟法90条
裁判所は,適当と認めるときは,職権で保釈を許すことができる。

これにより,理論的には,どのようは事件であっても保釈は可能,ということになります。
しかし,当然ながら,89条各号に該当するほど,裁量保釈も認められにくくなってしまいます。

なお,89条の④や⑤については,裁判の進行によっても変わってくる事情です。
どういうことかというと,既に裁判で証拠の調べが終わってしまえば,被告人が証拠隠滅をはかっても通常は無意味になるでしょうし,証人の取り調べが終わってしまえば,被告人が証人を畏怖させるような行為をすることも無意味となるため,これらの「おそれ」は考慮するに値しない事情となるのです。
そのため,特に否認事件などでは,証拠調べが終わるまでは保釈は認められず,その後は保釈が認められる,ということが良くあります。

もう一つの保釈である義務的保釈は,被告人の勾留が不当に長くなった場合に認められるべき保釈ですが,実際にはほとんど義務的保釈が認められることはありません。


一審で実刑有罪判決を受けた被告人は,権利保釈は認められません。
あくまでも裁量保釈を求めていくことになります。


(2)保釈の申立

保釈は弁護人が申し立てて行います。

①起訴後,第1回公判期日までの間は,(審理を担当する裁判所ではない)裁判官に対して行います。
これは,審理を担当する裁判所は,第1回公判期日までは起訴状以外の情報に接することが許されないという起訴状一本主義によるものです。
※ ここでいう裁判所とは,法律上の概念であり,例えば大阪地裁の事件だから大阪地裁には申立てることが出来ない,という意味ではありません。
審理を担当する裁判官(または裁判体)とは別の裁判官が,保釈の可否を担当する,という意味です。

②第1回公判期日以降は,審理を担当する裁判所に対して申し立てます。
これは,判決まで,そして判決後も高等裁判所に記録が到達するまで,一緒です。
※ 一審が地裁事件か簡裁事件かにかかわらず,刑事事件の控訴審は,必ず高等裁判所の管轄となります。

③高裁に記録が到達してから,最高裁に記録が到達するまでは,控訴審の裁判所に対する申立てとなります。

④最高裁に記録が到達した後には,上告審の裁判所に対して申立をおこないます。


①で認められなかった場合,不服申立の手段は,地裁への準抗告の手続となり,さらにそれに対する不服申立としては,最高裁への特別抗告があります。
※簡裁裁判官の決定であっても,地裁裁判官の決定であっても,準抗告は管轄の地裁に対して行うことになります。

②で認められなかった場合,不服申立の手段は,高裁への抗告手続となり,さらには最高裁への特別抗告があります。
最近では,パソコン遠隔操作事件の被告人に対するこれらの手続きが話題になっていました。

③で認められなかった場合,不服申立の手段は,高裁の他の合議体に対する異議申立となり,さらには最高裁への特別抗告があります。

④で認められなかった場合は,不服申立の手段はありません。


(3)釈放されるには

保釈の決定では,通常,保釈保証金の納付を身柄開放の要件としています。
したがって,保釈保証金が用意できなければ,保釈が認められていても,勾留を解かれることはありません。

ただし,裁判所の許可がある場合には,被告人以外のものの保証書をもって保証金に代えることも可能です。

保釈保証金は,有罪無罪に関係なく,原則として返却されます。

もっとも,保釈には,保釈後の住居指定などの要件をつけることができ,また,そのほかにも後述のとおり守らなければ保釈が取り消されてしまうようなルールもあります。
そして,これらの決まりを破った場合には,保釈保証金の一部または全部が没取されることもあることから,被告人に対する心理的な負担となりうる金額が,保証金として定められるのが通常です。
思い罪だから,保証金の金額も高い,という訳ではなく,被告人や家族等の資力などが考慮されるのです。

(4)保釈の取消し

以下の場合には,裁判所は保釈を取り消すことが出来ます。
また,このときには,保釈保証金の一部または全部が没取されます。

① 正当な理由なく出頭しない場合
② 逃亡した,または,逃亡のおそれがある場合
③ 罪証を隠滅した,または,隠滅のおそれがある場合
④ 被害者や証人に危害を加えた,または,危害を加えるおそれがある場合
⑤ 住居の制限などの保釈の条件に違反した場合

保釈が取り消されると,被告人は,再び収監されます。


(5)保釈中に実刑の有罪判決を受けると

保釈は失効します。
有罪判決を受けても確定までは,「無罪推定」のはずであり,上訴審にて争うことが出来ますが,身柄拘束の観点からは,保釈状態の継続は認められません。

ただし,控訴・上告を行う場合には,再び保釈を申立て,認められることもあります。

上述のとおり,地裁(簡裁)判決後も,高裁に記録が移るまでは,第一審の裁判所が保釈の可否を判断します。
すなわち,有罪判決をした裁判所が保釈の可否を判断するということになるため,一見きわめて認められにくそうですが,必ずしもそういうわけではありません。
むしろ,最初の保釈により問題は起こさなかったという実績がある以上,認めない,という判断をする方が難しいでしょう。

ただし,保釈保証金の金額は,前回よりも高くなるのが通常です。


(6)保釈保証金の還付

裁判が終われば,保証金は還付されます。
・ 有罪無罪は関係なく,判決の言い渡しが基準となります(確定する必要はありません)。
・ 免訴や控訴棄却などで裁判が終わる場合も同様です。

有罪判決後の再保釈の場合には,その際の保釈保証金(の一部)に,以前収めた保釈保証金を充てることが出来ます。
この場合には,当然ながら,まだ還付されない,ということになります。


(7)犯罪被害者から見れば

犯罪の被害者は,保全又は執行により,還付されるべき被告人の保釈保証金を仮差し押さえ,もしくは差し押さえすることも,選択肢としては考えられます。



摂津市,吹田市,茨木市,高槻市,島本町で,刑事弁護に関するご相談は, 大阪北摂法律事務所まで。 もちろん他の地域からのご相談も受け付けています。 お気軽にどうぞ。