2017年3月16日木曜日

令状によらないGPS捜査に関する最高裁判決

平成29年3月16日,令状によらないGPS捜査が適法かどうかという点に関する,最高裁判決が出ましたので,紹介します。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86600

最高裁は,GPS捜査は令状がなければ行うことができない強制の処分である,と判断しました。
もっとも,事件自体は,上告が棄却されているとおり,被告人の有罪については変更されませんでした。

刑事訴訟法は,捜査に関し,「強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない。」と規定しています(197条1項ただし書き)。

たとえば,逮捕や,捜索,差押え等は,刑事訴訟法に定めがあり,裁判官の発する令状(許可状)がなければ行うことができない,とされています。
これらは,身体の自由や,財産権を侵害する処分であるため,強制の処分に当たるということは,わかりやすいでしょう。
また,これらの強制の処分には,裁判官の発する令状が必要であるというのは,憲法上の要請でもあります。

ただし,令状主義にも,現行犯逮捕は令状なしで行うことができたり,逮捕に伴う捜索差押えは,令状なしに行うことができたり,という例外はあります。
緊急時に令状を必要としていたのでは,捜査への悪影響が大きい一方で,間違いが起こりにくいことも理由として考えられます。

一方,強制の処分でない処分は,「任意捜査」と呼ばれており,これは令状によらずに行うことができるとされています。
当人の意に反していれば強制の処分となる捜査であっても,当人がこれに同意している場合には任意捜査ということになります。

強制の処分がどのような捜査のことであるかが明確に規定されていないため,実際に行われた捜査手続が,強制の処分に当たるのか,任意処分にとどまるのかは,しばしば問題になってきました。
強制の処分であるにも関わらず,令状なしに行ったことにより得られた証拠は,有罪の立証のための証拠から排除される可能性があるのです。

たとえば,警察署に出頭した人に対し任意で取り調べを行うことは,任意捜査の範囲ですから,令状は必要ありません。
しかし,当人が帰りたいと言っているのにそれを許さないという状態になれば,それは当人の意思に反して身体の自由を奪っていることになるため,強制の処分であり,逮捕令状がなければ,違法な取り調べということになります。
また,所持品検査は任意で行われますが,それが任意ではなく強制的なものになった場合は,強制の処分である捜索令状がなければ許されない,ということになります。

法律に定めのない捜査手法が,強制の処分に当たるのかという点が問題になります。
たとえば,当人の承諾のない写真撮影やビデオ撮影が可能か,という点が問題となることもあります。
今回問題となったGPS捜査についても,同じような問題があります。

強制の処分については,最判昭和51年3月16日は,「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」と判示しました。

写真撮影等は,当人の肖像権の侵害として問題がありそうですが,令状がなければ一切行うことができないとするのも,問題です。
このような場合は,必要性・相当性があれば,無令状でも任意捜査として可能であるとされています。

今回問題となったGPS捜査は,当人の居場所が捜査機関には逐一伝わるのですから,プライバシーの侵害となります。
必要性・相当性がなければ,令状があって初めて捜査が可能になる,ということになります。
GPS捜査で,無令状でも行える必要性,相当性は,原則として無いと考えて良いでしょう。

問題は,GPS捜査を適法とする令状が,現行法では予定されていないことです。
判決では,最終的には立法により解決すべきである,と述べています。

捜査機関の令状主義の軽視が,今回の最高裁判決に至ったといえます。
多くの事件で,GPS捜査が無令状で行われているのではないかと思われます。
それらの捜査方針の変更が迫られることになるでしょう。

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2017年2月8日水曜日

相続税対策の養子縁組の有効性について

相続税対策の養子縁組の有効性について,最高裁判所の判決が出ましたので御紹介します(平成29年1月31日第3小法廷判決)。

孫を養子にすれば,養親である被相続人(養子から見れば,血縁上は祖父母)が亡くなった場合,財産を孫に(も),直接相続させることが可能になります。
被相続人の財産がそれほどない場合にはこのような工夫は必要ありませんが,資産家の場合には,一度の相続で負担することになる相続税の金額が馬鹿にならないため,養子縁組が相続税対策として利用されることがあるのです。

この最高裁判決のもととなった事件も,このような相続税対策の養子縁組の有効性が争われた事件でした。
民法802条1号は,当事者間に縁組をする意思がない場合には養子縁組は無効になると定めています。
養子縁組とは,養親になる者と養子になる者との間に,親子関係を発生させるものですので,相続税の節税のために行う養子縁組が,果たして縁組をする意思に基づいて行われたと言えるのかが問題となるのです。
上の例で言えば,祖父母と孫の間に,親子関係を作る意思,というのが果たして存在すると言えるのでしょうか。
縁組をしたところで,当事者は,祖父母と孫という人間関係を変えたいとは思っていないのではないでしょうか。

今回の最高裁判決では,「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」とされました。
要するに,相続税節税目的の養子縁組であっても,有効な養子縁組だと認められたのです。
その理由として,相続税の節税の動機と,縁組をする意思とは併存しうるものであることが挙げられています。
少しわかりにくいかも知れませんが,普通養子縁組において発生する「親子関係」というのは,いわゆる親子の情などによる結びつきを意味するのではなく,あくまでも法的な親子関係に過ぎないということです。
今回の判決は,当たり前のことを判断したとも言えるでしょう。

法的な親子関係を発生させる意思というのは,実に様々な動機と両立し得ますし,実際,相続税節税の動機だけでなく,様々な理由で養子縁組は行われています。
ただし,養子縁組の際に守るべきルールは何点かあり,それに違反した場合,民法802条で無効とされる場合のほか,民法803条以下で取り消される場合が規定されています。

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2017年1月18日水曜日

弁護士会照会という制度について

弁護士に事件を依頼したら,自分でやるのと比べて,どのようなメリットがあるのでしょうか。



当然ながら,弁護士は法律の専門家ですから,法律をあなたの事件に当てはめて,法律の要件に従った主張をしたり反論をしたりして,あなたの権利を守ろうとします。
(但し,ほとんどの裁判手続においても,弁護士による代理は必ず必要というわけではありません。)

しかし,論理を組み立てて,事案に則した主張を整理する前提として,証拠を集めてくるのは,原則的には弁護士の仕事とは言いがたいでしょう。
例えば,浮気調査を行うのは,代理人弁護士の得意とするところではありません。
もちろん,依頼されて対応できるというのであれば,弁護士であっても調査をすれば良いのですが,通常,そのような技術は,弁護士の専門的な知識から外れています。

もっとも,弁護士には,弁護士法23条の2第2項に基づく照会制度の利用が認められています。
この照会制度は,弁護士会照会,23条照会などと呼ばれています。

事件を受任した弁護士は,必要な情報を公務所や公私の団体から得るために,弁護士会に申し出て,弁護士会から照会を行って貰うことができるのです。
弁護士会照会の制度は,事件解決のために弁護士に依頼するメリットともなりうる点の一つと言えるでしょう。



2016年12月20日火曜日

預金債権の相続手続

平成28年12月19日,重要な最高裁決定が出ました。

共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるというものです。

2016年7月12日火曜日

懲戒処分としての減給

使用者は,非行のあった労働者に対して懲戒処分を下すことがあります。