2017年1月18日水曜日

弁護士会照会という制度について

弁護士に事件を依頼したら,自分でやるのと比べて,どのようなメリットがあるのでしょうか。



当然ながら,弁護士は法律の専門家ですから,法律をあなたの事件に当てはめて,法律の要件に従った主張をしたり反論をしたりして,あなたの権利を守ろうとします。
(但し,ほとんどの裁判手続においても,弁護士による代理は必ず必要というわけではありません。)

しかし,論理を組み立てて,事案に則した主張を整理する前提として,証拠を集めてくるのは,原則的には弁護士の仕事とは言いがたいでしょう。
例えば,浮気調査を行うのは,代理人弁護士の得意とするところではありません。
もちろん,依頼されて対応できるというのであれば,弁護士であっても調査をすれば良いのですが,通常,そのような技術は,弁護士の専門的な知識から外れています。

もっとも,弁護士には,弁護士法23条の2第2項に基づく照会制度の利用が認められています。
この照会制度は,弁護士会照会,23条照会などと呼ばれています。

事件を受任した弁護士は,必要な情報を公務所や公私の団体から得るために,弁護士会に申し出て,弁護士会から照会を行って貰うことができるのです。
弁護士会照会の制度は,事件解決のために弁護士に依頼するメリットともなりうる点の一つと言えるでしょう。






1 弁護士会照会制度とは

弁護士法23条の2は,次のように定めています。

1 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。

2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

この2項に基づいて,弁護士会は,公務所又は公私の団体に対して照会を行うのあです。

ポイントは,弁護士が直接公私の団体に対して照会を求めることが出来るわけでは無く,弁護士が弁護士会に依頼して,弁護士会が公私の団体に問い合わせる,という方法を取っているということです。
公私の団体が所持・管理する情報は,その団体のものであり,一定の権利を持つ人しか,その情報は参照することが出来ないのが原則です。
弁護士であるからといって,事件解決に必要だからこの情報を開示せよ,などと言って認められていたのでは,かえってその団体や,第三者の権利を侵害してしまうことにもなり兼ねません。
そこで,弁護士会が中立の立場から,事件解決のために必要な情報であると判断したものについて,公私の団体に対して照会を行う,という方法を取ることにしたのです。


2 照会を受けた団体はどう対応すべき?

それでは,照会を受けた団体は,これに回答する義務があるのでしょうか。
弁護士の立場としては,法律に規定された制度なのだから,その裏返しで回答義務あり,として貰いたいところですが,ことはそれほど簡単な問題ではありません。
団体としては,その情報を弁護士会に回答したことによって,本来の権利を持つ人から損害賠償請求される危険性もあります。

例えば,弁護士がAさんから引き受けた事件の解決のためには,B銀行の管理するCさんの銀行取引の記録が必要だと判断したとします。
弁護士は,所属弁護士会に弁護士会照会制度の利用を申し出,弁護士会は,B銀行にCさんの銀行取引の記録を出すように求めます。
しかし,B銀行としては,これをうかつに開示してしまったら,Cさんから損害賠償請求される可能性もあるのです。
銀行取引の記録は,Cさんに取っては,きわめて重要な個人情報ですからね。

この点については,団体としては,弁護士会照会に応じただけであると,単純にいって,損害賠償を防げるわけではありません。
中には,弁護士会から照会を受けた,通常は他人に知られたくない情報である前科情報を,漫然と照会に応じて回答した自治体に,損害賠償責任が認められた,というような事例もあります。

事件の反省を踏まえ,今では各弁護士会が,弁護士会照会を行うことが相当であるかどうかについて,厳格な審査を行っていますし,申出内容に疑問がある場合,照会を受けた各団体は,弁護士会または担当弁護士に対し,連絡して,補足説明を求めたりすることができるように,運用されています。

こういった厳格な運用を踏まえ,現在では,照会を受けた団体は,照会に回答する義務がある,とされています(広島高等裁判所岡山支部平成12年5月25日判決、大阪高等裁判所平成19年1月30日判決,下記最高裁判決など)。


3 それでも回答しなかった場合はどうなる?

この点について,平成28年10月18日に注目すべき判決が,最高裁で出ました。

弁護士法23条の2第2項に基づく照会に対する報告を拒絶する行為が,同照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはない。
という内容です。

転送手続による転送先を照会された,郵便局が,この回答を拒否したという事件です。
現在,郵便局は同種の照会に,応じていません。
通信の秘密を守るという重要な理由は存在するでしょうが,一方で犯罪行為等に郵便制度がりようされることも多く,どこに転送されたのかが分からないという郵便局側の一律の対応にも疑問を感じます。

最高裁は,「照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される」としながら,照会を申し出た弁護士会からの損害賠償請求は否定しました。

弁護士会は,照会制度の適正な運用のために権限を与えられているだけであり,この回答報告を受けることについて,弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない,と判断したのです。

ただ,最高裁も,回答義務はあるが,損害賠償請求は負わない,という判断をしたわけでは有りませんので,回答拒絶には慎重であるべきです。

弁護士に依頼した事件当事者が,回答を得られなかったことにより受けた損害を立証したうえで,回答を拒絶した公務所や公私の団体に対し損害賠償請求を行う,という方法までは,否定されていないようです。

もっとも,単に回答を拒絶されたという事実だけでは,損害賠償請求が認められないのであれば,弁護士会照会も使い勝手のあまり良くない制度ということになってしまいます。
この点,日本弁護士連合会は,法律の改正による,制度の改善を求めています。





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