家庭裁判所での手続に,氏または名の変更許可を得るというものがあります。
氏または名は,戸籍で管理されている情報ですが,これらを変更するためには,家庭裁判所に変更許可の審判を求めて申立を行わなければなりません。
根拠となるのは戸籍法107条(氏)および同107条の2(名)です。
どちらも家庭裁判所の許可が必要とされています。
戸籍法107条
1 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
2 外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、その者は、その婚姻の日から六箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。
3 前項の規定によつて氏を変更した者が離婚、婚姻の取消し又は配偶者の死亡の日以後にその氏を変更の際に称していた氏に変更しようとするときは、その者は、その日から三箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。
4 第一項の規定は、父又は母が外国人である者(戸籍の筆頭に記載した者又はその配偶者を除く。)でその氏をその父又は母の称している氏に変更しようとするものに準用する。
戸籍法107条の2
正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
許可を得るひつような実質的要件として,次のように定められていますね。
氏 やむを得ない事由によって
名 正当な事由によって
変更にはそれ相応の理由が必要であり,自分の好き勝手に氏または名を変更しようと思っても,許可されない,ということになります。
やむを得ない事由と正当な事由の差はと言うと,氏を変更することの方が名を変更することよりも厳しいとされています。
裁判所のウェブサイトでの説明です
氏の変更に必要な「やむを得ない事由」・・・氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合をいうとされています。
名の変更に必要な「正当な事由」・・・名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来す場合をいいます
名の変更の場合は,たとえば
・ 過去の虐待の経験を思い起こさせる戸籍名の使用は耐えがたい
・ 同姓同名の犯罪者がいる
・ 婚姻や養子縁組で同姓同名になってしまう
・ いじめをうけるような珍奇な名前である
・ いわゆるキラキラネームを改めたい
とかいうような深刻な事情はもちろんのこと,
・ 出家する
・ 難読である
・ 異性とまぎらわしい
・ 本来使用したかった文字が人名用漢字に加えられた
というような(社会生活において支障を来すかどうかは疑問な)場合にも認められることがあります。
一方で,氏の変更の場合には,やはり深刻な場合にのみ認められるようです。
なお,離婚の際には,配偶者の氏を名乗っていた当事者は,当然に婚姻前の氏にもどることになります(離婚による復氏)。
婚姻時の氏を離婚後も継続的に名乗る場合には,届出をする必要がありますが,これには家庭裁判所の許可は必要ありません(婚氏続称)。
これとは別に離婚時にもう一つ出てくるのが「子の氏の変更許可審判」であり,こちらは家庭裁判所での審判手続が必要になります。
離婚による復氏をした人が,未成年の子を自分の戸籍に入れるには,子も同じ氏に変更しなければならないので,この手続が必要になるのです。
子が15歳未満のときは,親権者が子の法定代理人として申し立てます。
子が15歳以上のときは,子本人が申立を行います。
(離婚しても婚氏続称する場合には,未成年の子を自分の戸籍に入れる手続だけで足りるので,家庭裁判所の許可は必要ありません。)
摂津市,吹田市,茨木市,高槻市,島本町で,氏・名の変更に関するご相談は,
大阪北摂法律事務所まで。
もちろん他の地域からのご相談も受け付けています。
お気軽にどうぞ。
2018年5月8日火曜日
2018年3月13日火曜日
使用貸借の終了原因
使用貸借とは,ただでものを貸すことです。
ものには,不動産(土地・建物)も含まれます。
ただでものを貸すということは,特に親族関係などで一般的に行われています。
たとえば,親子の関係だからということで,親が自分名義のマンションに子を家賃無料で一人暮らしさせている,などということは,それほど珍しいことではありません。
また,このような場合には,使用貸借について契約書が交わされていることも,それほど多くはありません。
このように,使用貸借契約が存在することが明らかであっても,具体的な契約内容(いつまで?何の目的で?)といった内容が明らかでない場合も多いため,使用貸借はどのような場合に終了させることが出来るのかは,しばしば問題になります。
法律はどう定めているのでしょうか。
民法第597条
1 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
期間の定めがある場合には,その期限で使用貸借契約は終了です。
期限の定めがなく,使用・収益の目的が定められている場合には,その目的に従って使用及び収益を終わった時で契約終了となります。
ただし,借り主が目的に従った使用収益をいつまでたっても終わらない場合に,契約がいつまでも終わらないのは不都合であるため,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときには,貸し主が返還請求をすることで,契約終了とすることが出来ます。
期間も使用・収益の目的も定められていない場合には,貸し主が,いつでも返還請求をすることで,契約終了とすることが出来ます。
もっとも,明確に契約書が交わされることが少ない使用貸借だけに,「使用・収益の目的が定められているかどうか」「定められている場合には使用及び収益をするのに足りる時間を経過したといえるか」という問題が,常につきまといます。
先ほどの親が子に自分の所有するマンションに住まわせた目的は,子がそのマンションの大学に通うためだったという場合も考えられます。
また,土地を貸した理由は,借り主が土地の上に家を建てて住むためだったという場合もあります。
これらの契約で,契約書が作られていなかったからといって,目的が定められていない,ということにはなりません。
それでは,使用及び収益をするのに足りる時間を経過したと言えるのは,どんなタイミングでしょうか。
これは,個別具体的な事情により,さまざまな判断がなされています。
「大学に通うために」という目的はわかりやすいですが,「家を建てて住むために」という目的の場合には,使用収益に足りる期間といっても,わかりにくいですね。
そのため,裁判官によって判断にかなりのブレがある部分です。
不動産の賃貸借と違って,使用貸借は無償であることから,借り主は特別な保護を与えられません。
※なお,民法の改正に伴い,次のように条文は変わります。
(1) 当事者が使用貸借の期間を定めたときは,使用貸借は,その期間が満了した時に終了する。
(2) 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合■において,使用及び収益の目的を定めたときは,使用貸借は,借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
(3)使用貸借は,借主の死亡によって終了する。
従前の2項但し書きや,3項に当たる規定は,別の条文となります。
以下の(1)は新設条項ですね。
自然に終了する場合以外の終了は,「解除」によることとされました。
(1) 貸主は,借主が借用物を受け取るまで,契約を解除することができる。ただし,書面による使用貸借については,この限りでない。
(2)貸主は,■に規定する場合において,■の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,契約の解除をすることができる。
(3)当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも契約の解除をすることができる。
(4) 借主は,いつでも契約の解除をすることができる。
摂津市,吹田市,茨木市,高槻市,島本町で,不動産に関するご相談は, 大阪北摂法律事務所まで。 もちろん他の地域からのご相談も受け付けています。 お気軽にどうぞ。
ものには,不動産(土地・建物)も含まれます。
ただでものを貸すということは,特に親族関係などで一般的に行われています。
たとえば,親子の関係だからということで,親が自分名義のマンションに子を家賃無料で一人暮らしさせている,などということは,それほど珍しいことではありません。
また,このような場合には,使用貸借について契約書が交わされていることも,それほど多くはありません。
このように,使用貸借契約が存在することが明らかであっても,具体的な契約内容(いつまで?何の目的で?)といった内容が明らかでない場合も多いため,使用貸借はどのような場合に終了させることが出来るのかは,しばしば問題になります。
法律はどう定めているのでしょうか。
民法第597条
1 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
期間の定めがある場合には,その期限で使用貸借契約は終了です。
期限の定めがなく,使用・収益の目的が定められている場合には,その目的に従って使用及び収益を終わった時で契約終了となります。
ただし,借り主が目的に従った使用収益をいつまでたっても終わらない場合に,契約がいつまでも終わらないのは不都合であるため,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときには,貸し主が返還請求をすることで,契約終了とすることが出来ます。
期間も使用・収益の目的も定められていない場合には,貸し主が,いつでも返還請求をすることで,契約終了とすることが出来ます。
もっとも,明確に契約書が交わされることが少ない使用貸借だけに,「使用・収益の目的が定められているかどうか」「定められている場合には使用及び収益をするのに足りる時間を経過したといえるか」という問題が,常につきまといます。
先ほどの親が子に自分の所有するマンションに住まわせた目的は,子がそのマンションの大学に通うためだったという場合も考えられます。
また,土地を貸した理由は,借り主が土地の上に家を建てて住むためだったという場合もあります。
これらの契約で,契約書が作られていなかったからといって,目的が定められていない,ということにはなりません。
それでは,使用及び収益をするのに足りる時間を経過したと言えるのは,どんなタイミングでしょうか。
これは,個別具体的な事情により,さまざまな判断がなされています。
「大学に通うために」という目的はわかりやすいですが,「家を建てて住むために」という目的の場合には,使用収益に足りる期間といっても,わかりにくいですね。
そのため,裁判官によって判断にかなりのブレがある部分です。
不動産の賃貸借と違って,使用貸借は無償であることから,借り主は特別な保護を与えられません。
※なお,民法の改正に伴い,次のように条文は変わります。
(1) 当事者が使用貸借の期間を定めたときは,使用貸借は,その期間が満了した時に終了する。
(2) 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合■において,使用及び収益の目的を定めたときは,使用貸借は,借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
(3)使用貸借は,借主の死亡によって終了する。
従前の2項但し書きや,3項に当たる規定は,別の条文となります。
以下の(1)は新設条項ですね。
自然に終了する場合以外の終了は,「解除」によることとされました。
(1) 貸主は,借主が借用物を受け取るまで,契約を解除することができる。ただし,書面による使用貸借については,この限りでない。
(2)貸主は,■に規定する場合において,■の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,契約の解除をすることができる。
(3)当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも契約の解除をすることができる。
(4) 借主は,いつでも契約の解除をすることができる。
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2018年3月6日火曜日
共同不法行為者に対する請求と時効中断
複数の行為者により被害者に損害を与えた場合には,加害者には共同不法行為が成立します。
被害者が損害賠償を得るためには,加害者へ請求しなければなりません。
損害賠償債権にも消滅時効があるため,放っておくと時効を援用されて,賠償を受けることが出来なくなってしまうのです。
それでは,共同不法行為者の一人に対して行った請求は,他の共同不法行為者に対しても,時効中断の効力を生じるでしょうか。
(事例)
Xは,YとZの行為により損害を受けた。
Xは,時効期間が経過する前に,Yに対して損害賠償請求(催告)を行った。
その後時効期間が経過した。
いまだ賠償を受けられないXは,催告から6か月以内に,YとZを相手として損害賠償請求訴訟を提起した。
催告をしておくと,時効期間が過ぎた後も,催告から6か月以内に提訴すれば,時効中断が認められます。
この事例では,Yに対しては時効中断の効力が認められることは間違いないですね。
一方で,Zに対してはどうでしょうか。
共同不法行為者間で請求の絶対効が認められるのか,という問題になります。
結論
残念ながら,この場合には,絶対効は認められない,ということになります。
Xとしては,Yだけでなく,Zに対しても損害賠償の催告を行っておくべきでした。
これは,一般的な連帯債務者間において,請求の絶対効が認められるのとは対照的です。
※ただし,連帯債務者間における請求の絶対効については,民法改正により削除されることが決まっています。
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それでは,共同不法行為者の一人に対して行った請求は,他の共同不法行為者に対しても,時効中断の効力を生じるでしょうか。
(事例)
Xは,YとZの行為により損害を受けた。
Xは,時効期間が経過する前に,Yに対して損害賠償請求(催告)を行った。
その後時効期間が経過した。
いまだ賠償を受けられないXは,催告から6か月以内に,YとZを相手として損害賠償請求訴訟を提起した。
催告をしておくと,時効期間が過ぎた後も,催告から6か月以内に提訴すれば,時効中断が認められます。
この事例では,Yに対しては時効中断の効力が認められることは間違いないですね。
一方で,Zに対してはどうでしょうか。
共同不法行為者間で請求の絶対効が認められるのか,という問題になります。
結論
残念ながら,この場合には,絶対効は認められない,ということになります。
Xとしては,Yだけでなく,Zに対しても損害賠償の催告を行っておくべきでした。
これは,一般的な連帯債務者間において,請求の絶対効が認められるのとは対照的です。
※ただし,連帯債務者間における請求の絶対効については,民法改正により削除されることが決まっています。
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2017年12月14日木曜日
だまされたふり作戦でも詐欺未遂は成立
最高裁判所で,オレオレ詐欺等の特殊詐欺における「だまされたふり作戦」で,被害者から発送された荷物を受け取ることによって関与した者に,詐欺未遂罪が成立するとした我判断がでました(平成29年12月11日第三小法廷決定)。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87302
だまされたふり作戦とは・・・
「だまされたことに気付いた,あるいはそれを疑った被害者側が,捜査機関と協力の上,引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして,受領行為等の際に犯人を検挙しようとする捜査手法」のことです。
犯罪行為に関わっているのだから,未遂ではあっても詐欺は詐欺,罪が成立するのは当たり前じゃないか,そう思われるかも知れません。
なぜ,成立するかしないか,争いになるのでしょうか。
それは,詐欺罪がどのような場合に成立するか,ということから考えることになります。
詐欺罪の成立には,一般的に次のような要件を満たさなければならないとされています。
① 相手方を錯誤に陥らせて財物または財産上の利益の処分をさせるような欺罔行為・詐欺行為によって
② 相手方が錯誤に陥り
③ 相手方が自分の意思で,財物または財産上の利益の処分行為を行い
④ 財物の占有または財産上の利益が行為者(または第三者)に移転すること
⑤ ①~④に因果関係があること
⑥ 行為者に不法領得の意思があること
ところが,だまされたふり作戦では,このうち②の要件を満たしていないのではないか,という疑問が生じます。
実際,この要件を満たしていない(相手方すなわち被害者はだまされていない),として無罪とした下級審判決もあったようです。
この最高裁決定の第一審も無罪判決でした。
この事件の流れは,以下のようなものでした。
オレオレ詐欺の架け子Cが被害者Aに電話をかけて現金を送るように指示
↓
Aは詐欺であることを見抜く
↓
警察の指示のもとAは現金の入っていない荷物を指定場所に発送
↓
このころ,被告人XはAたちの詐欺グループに関わり,荷物の受け子となることを承諾
↓
被告人Xは指定場所で荷物を受け取る
↓
被告人X,詐欺未遂の「共同正犯」の疑いで逮捕される
Aがそのままだまされてしまった場合,実際に①欺罔行為を行ったのはAですが,途中から参加した被告人Xも「共同正犯」として罪を問われることになります。
しかし,実際には被告人Xが参加したときには,すでにAは詐欺であることを見抜いていましたので,被告人Xとの関係では②の錯誤の要件が欠けている,というのが弁護人側の主張だったようです。
今回の決定では,「だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず」被告人Xが加わる前の「欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき,詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負う」と判断されました。
実際,だまされたふり作戦が実行された場合にも,架け子Aに詐欺未遂罪が成立することは(電話をかけることで欺罔行為に着手しているので)当然であり,後から加わったからといって罪が成立しない,というのも疑問が残ります。
今回の最高裁の決定は,妥当な結論を示したと言えるでしょう。
摂津市,吹田市,茨木市,高槻市,島本町で,刑事手続・損害賠償請求に関するご相談は, 大阪北摂法律事務所まで。 もちろん他の地域からのご相談も受け付けています。 お気軽にどうぞ。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87302
だまされたふり作戦とは・・・
「だまされたことに気付いた,あるいはそれを疑った被害者側が,捜査機関と協力の上,引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして,受領行為等の際に犯人を検挙しようとする捜査手法」のことです。
犯罪行為に関わっているのだから,未遂ではあっても詐欺は詐欺,罪が成立するのは当たり前じゃないか,そう思われるかも知れません。
なぜ,成立するかしないか,争いになるのでしょうか。
それは,詐欺罪がどのような場合に成立するか,ということから考えることになります。
詐欺罪の成立には,一般的に次のような要件を満たさなければならないとされています。
① 相手方を錯誤に陥らせて財物または財産上の利益の処分をさせるような欺罔行為・詐欺行為によって
② 相手方が錯誤に陥り
③ 相手方が自分の意思で,財物または財産上の利益の処分行為を行い
④ 財物の占有または財産上の利益が行為者(または第三者)に移転すること
⑤ ①~④に因果関係があること
⑥ 行為者に不法領得の意思があること
ところが,だまされたふり作戦では,このうち②の要件を満たしていないのではないか,という疑問が生じます。
実際,この要件を満たしていない(相手方すなわち被害者はだまされていない),として無罪とした下級審判決もあったようです。
この最高裁決定の第一審も無罪判決でした。
この事件の流れは,以下のようなものでした。
オレオレ詐欺の架け子Cが被害者Aに電話をかけて現金を送るように指示
↓
Aは詐欺であることを見抜く
↓
警察の指示のもとAは現金の入っていない荷物を指定場所に発送
↓
このころ,被告人XはAたちの詐欺グループに関わり,荷物の受け子となることを承諾
↓
被告人Xは指定場所で荷物を受け取る
↓
被告人X,詐欺未遂の「共同正犯」の疑いで逮捕される
Aがそのままだまされてしまった場合,実際に①欺罔行為を行ったのはAですが,途中から参加した被告人Xも「共同正犯」として罪を問われることになります。
しかし,実際には被告人Xが参加したときには,すでにAは詐欺であることを見抜いていましたので,被告人Xとの関係では②の錯誤の要件が欠けている,というのが弁護人側の主張だったようです。
今回の決定では,「だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず」被告人Xが加わる前の「欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき,詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負う」と判断されました。
実際,だまされたふり作戦が実行された場合にも,架け子Aに詐欺未遂罪が成立することは(電話をかけることで欺罔行為に着手しているので)当然であり,後から加わったからといって罪が成立しない,というのも疑問が残ります。
今回の最高裁の決定は,妥当な結論を示したと言えるでしょう。
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2017年11月29日水曜日
強制わいせつ罪に関する判例変更
平成29年11月29日,最高裁判決で,強制わいせつ罪に関する判例の変更が行われました。
公開された判決はこちら
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87256
事案は,被告人が知人から借金する際,その要求に従って,7歳の女児に性的虐待を加えたというものです。
(児童ポルノ製造・提供罪も絡んでいますが,この点では有罪であることに争いがないため,省略します。)
被告人は,自分の性欲を満足させる意図は無く,金銭目的であったという主張をしています。
仮にこの主張が真実であれば,従来の判例によれば,強制わいせつ罪は成立しません。
従来,強制わいせつ罪が成立するためには,被告人の性的意図が必要か不要かという争いがありました。
昭和45年1月29日,最高裁は,この点に決着をつける判決を出しました。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50924
「強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして,その立つているところを撮影する行為であつても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しない。」
すなわち,被告人の性的意図がなければ強制わいせつ罪は成立しない,という判断でした。
強制わいせつ罪は,個人の性的自由を保護法益とする以上,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為については,罪が成立すると考えても良さそうですが,なぜ従来の裁判では被告人の性的意図が必要であると判断されたのでしょうか。
それは,どのような行為が「わいせつな行為」であるのか,非常に広がりをもって解釈されるおそれがあるからです。
わいせつな行為とは,一般的に,「いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為」とされています。
昭和45年判例の事案で,被害者が受けた行為(裸で立たせられ写真撮影された)は,客観的にわいせつな行為であると言うことはできそうです。
それでは,今回の事案ではどうでしょうか。
性的意図を不要としては,強制わいせつ罪の成立が無限定に広がってしまうおそれはないでしょうか。
今回の判決は,今までの裁判例を変更し,客観的にわいせつな行為には,被告人の性的意図は不要とするものです。
最高裁で先例の最高裁判決を変更する判断を行う場合は,15名の裁判官全員による大法廷で行います。
判決は,以下のように述べて,前述の批判をかわしています。
直ちにわいせつな行為と評価できる行為以外については,種々の要素を総合考慮し,その中には行為者の目的等主観的事情を考慮することもあり得る,という判断です。
15名の裁判官全員一致の判断でした。
「刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。
そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。」
個人の性的自由の保護の必要性が重視されるようになり,性犯罪の厳罰化や罪名の変更等が進む中で,必然的な判例変更ではあります。
私見ですが,今までも「わいせつな行為」であるかの判断に,種々の具体的状況を考慮に入れてきたと考えられるため,その判断が難しくなったわけではないと考えます。
ただ,行為者の性的意図は,必須の要件ではなくなったということです。
摂津市,吹田市,茨木市,高槻市,島本町で,刑事事件に関するご相談は, 大阪北摂法律事務所まで。 もちろん他の地域からのご相談も受け付けています。 お気軽にどうぞ。
公開された判決はこちら
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87256
事案は,被告人が知人から借金する際,その要求に従って,7歳の女児に性的虐待を加えたというものです。
(児童ポルノ製造・提供罪も絡んでいますが,この点では有罪であることに争いがないため,省略します。)
被告人は,自分の性欲を満足させる意図は無く,金銭目的であったという主張をしています。
仮にこの主張が真実であれば,従来の判例によれば,強制わいせつ罪は成立しません。
従来,強制わいせつ罪が成立するためには,被告人の性的意図が必要か不要かという争いがありました。
昭和45年1月29日,最高裁は,この点に決着をつける判決を出しました。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50924
「強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして,その立つているところを撮影する行為であつても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しない。」
すなわち,被告人の性的意図がなければ強制わいせつ罪は成立しない,という判断でした。
強制わいせつ罪は,個人の性的自由を保護法益とする以上,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為については,罪が成立すると考えても良さそうですが,なぜ従来の裁判では被告人の性的意図が必要であると判断されたのでしょうか。
それは,どのような行為が「わいせつな行為」であるのか,非常に広がりをもって解釈されるおそれがあるからです。
わいせつな行為とは,一般的に,「いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為」とされています。
昭和45年判例の事案で,被害者が受けた行為(裸で立たせられ写真撮影された)は,客観的にわいせつな行為であると言うことはできそうです。
それでは,今回の事案ではどうでしょうか。
性的意図を不要としては,強制わいせつ罪の成立が無限定に広がってしまうおそれはないでしょうか。
今回の判決は,今までの裁判例を変更し,客観的にわいせつな行為には,被告人の性的意図は不要とするものです。
最高裁で先例の最高裁判決を変更する判断を行う場合は,15名の裁判官全員による大法廷で行います。
判決は,以下のように述べて,前述の批判をかわしています。
直ちにわいせつな行為と評価できる行為以外については,種々の要素を総合考慮し,その中には行為者の目的等主観的事情を考慮することもあり得る,という判断です。
15名の裁判官全員一致の判断でした。
「刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。
そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。」
個人の性的自由の保護の必要性が重視されるようになり,性犯罪の厳罰化や罪名の変更等が進む中で,必然的な判例変更ではあります。
私見ですが,今までも「わいせつな行為」であるかの判断に,種々の具体的状況を考慮に入れてきたと考えられるため,その判断が難しくなったわけではないと考えます。
ただ,行為者の性的意図は,必須の要件ではなくなったということです。
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