最高裁判所で,オレオレ詐欺等の特殊詐欺における「だまされたふり作戦」で,被害者から発送された荷物を受け取ることによって関与した者に,詐欺未遂罪が成立するとした我判断がでました(平成29年12月11日第三小法廷決定)。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87302
だまされたふり作戦とは・・・
「だまされたことに気付いた,あるいはそれを疑った被害者側が,捜査機関と協力の上,引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして,受領行為等の際に犯人を検挙しようとする捜査手法」のことです。
犯罪行為に関わっているのだから,未遂ではあっても詐欺は詐欺,罪が成立するのは当たり前じゃないか,そう思われるかも知れません。
なぜ,成立するかしないか,争いになるのでしょうか。
それは,詐欺罪がどのような場合に成立するか,ということから考えることになります。
詐欺罪の成立には,一般的に次のような要件を満たさなければならないとされています。
① 相手方を錯誤に陥らせて財物または財産上の利益の処分をさせるような欺罔行為・詐欺行為によって
② 相手方が錯誤に陥り
③ 相手方が自分の意思で,財物または財産上の利益の処分行為を行い
④ 財物の占有または財産上の利益が行為者(または第三者)に移転すること
⑤ ①~④に因果関係があること
⑥ 行為者に不法領得の意思があること
ところが,だまされたふり作戦では,このうち②の要件を満たしていないのではないか,という疑問が生じます。
実際,この要件を満たしていない(相手方すなわち被害者はだまされていない),として無罪とした下級審判決もあったようです。
この最高裁決定の第一審も無罪判決でした。
この事件の流れは,以下のようなものでした。
オレオレ詐欺の架け子Cが被害者Aに電話をかけて現金を送るように指示
↓
Aは詐欺であることを見抜く
↓
警察の指示のもとAは現金の入っていない荷物を指定場所に発送
↓
このころ,被告人XはAたちの詐欺グループに関わり,荷物の受け子となることを承諾
↓
被告人Xは指定場所で荷物を受け取る
↓
被告人X,詐欺未遂の「共同正犯」の疑いで逮捕される
Aがそのままだまされてしまった場合,実際に①欺罔行為を行ったのはAですが,途中から参加した被告人Xも「共同正犯」として罪を問われることになります。
しかし,実際には被告人Xが参加したときには,すでにAは詐欺であることを見抜いていましたので,被告人Xとの関係では②の錯誤の要件が欠けている,というのが弁護人側の主張だったようです。
今回の決定では,「だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず」被告人Xが加わる前の「欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき,詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負う」と判断されました。
実際,だまされたふり作戦が実行された場合にも,架け子Aに詐欺未遂罪が成立することは(電話をかけることで欺罔行為に着手しているので)当然であり,後から加わったからといって罪が成立しない,というのも疑問が残ります。
今回の最高裁の決定は,妥当な結論を示したと言えるでしょう。
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