2017年11月29日水曜日

強制わいせつ罪に関する判例変更

平成29年11月29日,最高裁判決で,強制わいせつ罪に関する判例の変更が行われました。

公開された判決はこちら
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87256

事案は,被告人が知人から借金する際,その要求に従って,7歳の女児に性的虐待を加えたというものです。
(児童ポルノ製造・提供罪も絡んでいますが,この点では有罪であることに争いがないため,省略します。)

被告人は,自分の性欲を満足させる意図は無く,金銭目的であったという主張をしています。
仮にこの主張が真実であれば,従来の判例によれば,強制わいせつ罪は成立しません。

従来,強制わいせつ罪が成立するためには,被告人の性的意図が必要か不要かという争いがありました。

昭和45年1月29日,最高裁は,この点に決着をつける判決を出しました。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50924

「強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして,その立つているところを撮影する行為であつても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しない。」
すなわち,被告人の性的意図がなければ強制わいせつ罪は成立しない,という判断でした。

強制わいせつ罪は,個人の性的自由を保護法益とする以上,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為については,罪が成立すると考えても良さそうですが,なぜ従来の裁判では被告人の性的意図が必要であると判断されたのでしょうか。
それは,どのような行為が「わいせつな行為」であるのか,非常に広がりをもって解釈されるおそれがあるからです。
わいせつな行為とは,一般的に,「いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為」とされています。
昭和45年判例の事案で,被害者が受けた行為(裸で立たせられ写真撮影された)は,客観的にわいせつな行為であると言うことはできそうです。
それでは,今回の事案ではどうでしょうか。
性的意図を不要としては,強制わいせつ罪の成立が無限定に広がってしまうおそれはないでしょうか。

今回の判決は,今までの裁判例を変更し,客観的にわいせつな行為には,被告人の性的意図は不要とするものです。
最高裁で先例の最高裁判決を変更する判断を行う場合は,15名の裁判官全員による大法廷で行います。

判決は,以下のように述べて,前述の批判をかわしています。
直ちにわいせつな行為と評価できる行為以外については,種々の要素を総合考慮し,その中には行為者の目的等主観的事情を考慮することもあり得る,という判断です。
15名の裁判官全員一致の判断でした。

「刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。
 そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。」

個人の性的自由の保護の必要性が重視されるようになり,性犯罪の厳罰化や罪名の変更等が進む中で,必然的な判例変更ではあります。

私見ですが,今までも「わいせつな行為」であるかの判断に,種々の具体的状況を考慮に入れてきたと考えられるため,その判断が難しくなったわけではないと考えます。
ただ,行為者の性的意図は,必須の要件ではなくなったということです。


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