2019年6月22日土曜日

配偶者居住権(2)

2018年7月相続法改正に関する記事です。

2018年7月相続法改正について

2020年4月1日に施行される配偶者居住権について見ていきたいと思います。

条文の紹介記事は以前の記事をご覧下さい。



1 配偶者居住権とはなんでしょう

配偶者居住権は、亡くなられた方(被相続人)の配偶者(夫または妻)が、被相続人の遺産であった居住用建物(自宅)に生涯または一定期間住み続けることができるように配慮して、新たに設けられた権利です。
相続開始の時に自宅に住んでいなければなりません。

2 配偶者居住権はどうすれば発生するのでしょうか

配偶者居住権は、遺言または遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者に取得させることができます。

遺言がない場合、基本的には相続人間の合意が必要ですが、特別の事情があれば、合意がない場合でも家庭裁判所の遺産分割審判において配偶者居住権が認められることがあります。


配偶者短期居住権と違って、自動的に発生する権利ではないので注意が必要です。



3 配偶者居住権を認めることでどのような利点があるのでしょうか

配偶者が自宅で暮らしながらその他の財産も取得できる可能性があります。

具体的に見ていきましょう。
Aさんは、3000万円の価値のある自宅と預貯金1000万円を遺して亡くなりました。
遺言はありませんでした。
Aさんの法定相続人は、妻のBさんと子のCさんですので、法定相続分は1対1ということになります。

Bさんは、自宅に継続して住み続けたいと思っています。

(今までの制度だと)

Bさんが自宅の所有権を取得するのが理想です。
その代わり、Cさんがあくまでも1対1の相続を主張した場合には、預貯金1000万円のほか、代償金としてさらに1000万円をCさんに渡す必要があります。
Bさんとしては、自宅への居住継続は確保できたとしても、今後の生活には大いに不安を覚えるところです。
そもそも自宅をBさんが取得することに合意ができるとも限りません。

Cさんが相続した上で、BさんはCさんから自宅を賃貸借契約を締結する、という方法もあります。
しかし、合意が成立しなければ賃貸借契約は成立しません。



(配偶者居住権を利用すると)
遺産分割において、Bさんの配偶者居住権を認める合意が成立するか審判が確定すると、Bさんは自宅への居住を継続することができます。
その場合、Bさんが取得するのはあくまでも「配偶者居住権」であり、所有権ではありません。

このとき、所有権はCさんの名義とするならば、Cさんが取得するのは「制限付きの所有権」ということになり、CさんはBさんの配偶者居住権が継続する間、この不動産を自由に処分することが出来なくなります。
理論的には、不動産の価格=(Bさんの)配偶者居住権の価値+(Cさんの)制限付き所有権の価値ということになります。

配偶者居住権の評価は、相続税申告にも必要となるため、税務上の計算方法が定められることになります。
もっとも、相続人間で配偶者居住権をどの程度に評価するかは、合意ができさえすれば自由です。
争いが生じた場合には遺産分割の場面において、税務上それぞれがどのように評価されるかが、分割に際しての指標になるでしょう。

例えば、3000万円の不動産のうち、Bさんの配偶者居住権が1200万円、Cさんの制限付き所有権が1800万円と評価し、BさんとCさんで均等に遺産を分けることにする場合、残りの現預金1000万円をBさんに800万円、Cさんに200万円というような分け方をすることも出来るのです。
Bさんとしては、自宅を維持しつつも手元にまとまった財産を遺すことができました。
Cさんは、Bさんが亡くなり、配偶者居住権が無くなることによって、(税務上の負担は別として)負担のない所有権を取得することが可能になります。




遺言書作成の場面では、より重要な変更と言えるかも知れません。

遺留分を侵害した遺言を作成してしまうと、侵害された相続人の意向により、自分の意思どおりの相続は実現できない可能性が高まってしまいます。
例えば、不動産の価値が大きく、その他預貯金等は少ないというような財産の場合、配偶者に不動産を相続させるとすると、たとえ子供にその他全てを相続させるとしても、どうしても子供の遺留分を侵害する可能性が高まります。
その場合、税務上どのように配偶者居住権が評価されるかを検討したうえで、「配偶者に配偶者居住権を取得させる」旨の遺言を作成することにより、配偶者の自宅への居住を確保したうえで、遺留分を侵害しない遺言を残すことができる可能性が高まります。
なお、配偶者居住権を取得させることは、「遺贈」の扱いとなります。


ただし、配偶者居住権の価値がかなり高く評価されてしまい、自宅の所有権そのものとほとんど変わらないような場合は、あまり使えないという可能性もあります。

いずれにせよ、配偶者居住権を定める遺言の作成には、税務上の知識と、遺留分等相続法の知識が必要ですので、専門家の助けを借りた方が良いでしょう。



(補足)
配偶者居住権を遺産分割の場面で考慮できるようになるのは、施行日(2020年4月1日)以後に相続が発生した場合です。
また、配偶者居住権を遺贈する遺言については、施行日以降に作成されたものでなければ、意図したとおりの効果を得ることは出来ません。
(附則10条)




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