2015年1月17日土曜日

被相続人の預金を下ろす方法を教えて下さい

人が亡くなった場合,金融機関によって預貯金はどのように扱われるでしょうか。

金融機関は,口座名義人が亡くなったことを知った場合には,口座を凍結していったん使えなくしてしまいます。
そして,正式な相続手続を経なければ,その預金を下ろすことはできなくしてしまいます。



もちろん,口座名義人の預金口座について,自由に出し入れしている第三者がいる場合には,事実上,金融機関が口座名義人の死亡を把握する前に,預金を全部引き出してしまうことも可能でしょうが,これは脱法行為です。
しかも,このようなことをすれば,相続手続中にもめる原因ともなります。

それでは,正式な相続手続とは何でしょうか。

相続財産の分け方には,遺言がある場合と,遺産分割を行う場合があります。
(相続人がいない場合などの特殊な場合は,ここでは考えません。)

遺言がある場合,遺言により,この口座の預金を相続させる,あるいは遺贈する,とされた相続人または受遺者のAさんは,この口座を解約して,自分のものとすることができるのでしょうか。

実はそうとも限りません。

遺言において,遺言執行者が指定されている場合,あるいは家庭裁判所に申し立てて遺言執行者を指定してもらった場合には,この口座の解約・払い戻しの手続をしたうえで,相続財産を分配するのは,遺言執行者の役割です。
相続することになっている,または,遺贈された,というだけでは,この口座の金額を,自分のものとすることは出来ません。

遺言執行者がない場合には,理論的には,Aさんが書類を揃えて出せば,自分のものにすることができるはずです。
しかし,理論的には,と書いたのは,実務的には,そうでない場合も多いからです。
金融機関としては,相続人間の争いになるべく巻き込まれたくない,ということから,このような場合にも,相続人全員の承諾書を取り付けることを要求することも多いのです。
相続人間に心情的な対立が大きい場合などは,このような承諾を取り付けることも困難であるため,遺言執行者の指定申立てをした方が,結果的に早いかも知れません。

それでは,遺言がない場合はどうでしょうか。

遺言がない場合には,遺産分割手続を経て,この口座の金額の帰属先がどの相続人になるかを決めることになります。
もっとも,遺産分割手続き前に,口座の金額を現金化しておいた方が,分けやすいという事情もあり,遺産分割前に,預金口座を解約することにも一定の需要があります。
このような場合には,相続人全員の承諾を得ることができれば,一人の代表者による解約・払い戻しにより現金化することが認められます。
当然ながら,相続人間に対立があれば,これを行うことは難しくなります。

遺産分割手続を経れば,それにしたがって預金の解約・払い戻しを受けることが出来ます。
この場合は,相続人全員の意思が遺産分割協議書に現れ,または,裁判上成立した調停調書や審判書があることから,当該金融機関が相続人間の争いに巻き込まれる可能性がほとんどなくなるからでしょう。

最後に,相続人全員の協力も得られず,遺産分割手続もしばらく終わりそうにない,という場合には,この預金はどうしようもないのでしょうか。

実は,裁判では,預貯金などの金銭債権は,相続開始と同時に当然に分配され,書く相続人に法定相続分に応じて帰属するとされています。
したがって,理論的には,預貯金について,相続人はその法定相続分については,払い戻し請求できる,ということになります。
しかし,繰り返し指摘しているとおり,金融機関は,相続人間の争いに巻き込まれることは避けようとします。
法定相続分にしたがった払い戻しを認めていたのでは,後に,法定相続分と異なる遺産分割が成立した場合に,この精算をめぐって,金融機関が巻き込まれる可能性も高くなることから,金融機関としては,法定相続分だから,という理由では払い戻しをしたくはないのです。

そこで,どうしても早急に法定相続分の払い戻しを受けたいという場合には,金融機関に対して,法定相続分の支払を求めて訴訟を提起するしかありません。
もっとも,これは,後から相続人間のトラブルになる場合も多いため,最後の手段として考えるべきでしょう。

以上をまとめると,

遺言がある場合

① 遺言執行者がある場合
 → 遺言執行者による払い戻し手続を行う

② 遺言執行者がいない場合
 → 遺言執行者の選任を申立てて,遺言執行者による払い戻し手続を行う
 または
 → 相続人全員の承諾を得て,受遺者等の代表者が手続を行う

遺言がない場合

① 相続人全員の承諾を得て,遺産分割協議前に代表者が払い戻し手続を行う。

② 成立した遺産分割にしたがって払い戻し手続を行う。

番外編

① 自分の法定相続分についてのみ,金融機関に払い戻しを求めて,訴訟を提起する。

ということになります。



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