いずれも,正規労働者と非正規労働者の待遇の差が認められるかどうか,という労働者側にとっても使用者側にとっても,重要な問題に関する判断です。
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② 平成29年(受)第442号 地位確認等請求事件
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この記事では,2件目の判決を紹介します。
今回の判決は,以下のような内容の判断となっています。
① 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる
② 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かについての判断の方法
③ 無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
① について
労働契約法20条については,前回の記事に記載しました。
(有期契約の社員と無期契約の社員の)労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
本件は,正社員と定年退職後再雇用された嘱託社員の待遇の差が問題となった事例です。
行う仕事の内容は一緒ですが,賃金に関して言えば,賞与が無いなどの事情で,定年前の賃金の8割程度になるものでした。
再雇用による嘱託社員が,同じ仕事をする正社員と同等の賃金をもらえないのは,果たして合理的といえるのでしょうか。
最高裁は次の通り判示しています。
定年制は,使用者が,その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら,人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに,賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ,定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は,当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し,使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合,当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また,定年退職後に再雇用される有期契約労働者は,定年退職するまでの間,無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして,このような事情は,定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって,その基礎になるものであるということができる。
そうすると,有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。
② について
本件において,労働者が待遇の差として問題視したのは,賃金の多数項目にわたります。
最高裁は,各賃金項目の趣旨を個別に考慮すべしとしています。
有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
③ について
本件では
・ 基本給+能率給+職務給の場合と,基本給+歩合給の場合を比べた時の差
・ 嘱託社員は一定の要件を満たせば老齢厚生年金を受け取ることができるうえ,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,2万円の調整給が支給されること
といった事情から,不合理な相違には該当しない,と判断しています。
このほか
精勤手当が嘱託社員に支給されないことについては,不合理な相違である。
住宅手当・家族手当が嘱託社員に支給されないことについては,不合理な相違ではない。
役付手当が嘱託社員に支給されないことについては,不合理な相違ではない。
超勤手当が嘱託社員に支給されないことについては,不合理な相違である。
賞与が嘱託社員に支給されないことについては,不合理な相違ではない。
との判断になっています。
(各手当の性質と,判断の理由について興味がある場合は,判決を見て下さい。)
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