2016年6月2日木曜日

刑の一部の執行猶予

平成28年6月1日より,刑事事件の判決に,「刑の一部の執行猶予」という制度が始まりました。

執行猶予とは,文字通り刑の執行を一定期間猶予することであり,例えば「懲役1年執行猶予3年」といえば,懲役1年の判決を執行することを3年間猶予する,という意味になります。
そして重要なのは,その執行猶予期間に執行猶予が取り消される事態が生じなければ,刑の言い渡しは効力を失う,とされていますので,懲役に行く必要がなくなるのです。



これまでは,執行猶予といえば,その刑の全体について付されるものでした。
それに対し,刑の一部の執行猶予とは,どういうものでしょうか。

これは,平成28年6月1日に施行された「刑法等の一部を改正する法律」および「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」に基づく新しい制度となります。

※ちなみに,これまでの執行猶予は,「刑の全部の執行猶予」と呼ばれるようになります。

新設の刑法27条の2は,次のようになっています。

1 次に掲げる者が3年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受けた場合において,犯情の及び犯人の境遇その他の情状を考慮して,再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められるときは1年以上5年以下の期間,その刑の一部の執行を猶予することができる。
① 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
② 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その刑の全部の執行を猶予された者
③ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その刑の執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については,そのうち執行が猶予された刑については,そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し,当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から,その猶予の期間を算定する。

3 前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり,又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは,第1項の規定による猶予の期間は,その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。

なお,刑の一部の執行猶予期間中にも保護観察をつけることはでき(27条の3),再び罪を犯す等の一定の事情の場合には,執行猶予が取り消されることになるのも,従来の執行猶予とほぼ同様です(27条の4以下)。

また,薬物犯に関しては,特に依存を断つことが重要であることから,
犯情の及び犯人の境遇その他の情状を考慮して,刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められるとき
に刑の一部の執行猶予を付けることができる,とされています。


例1
前科がない人が,罪を犯し3年の懲役判決が言い渡されることになった場合,
① 実刑
② 一部執行猶予 例えば懲役3年うち1年を3年間執行猶予
③ 全部執行猶予 例えば懲役3年執行猶予5年
の3通りの刑が考えられることになります。

例2
懲役1年6月執行猶予3年の前科がある人が前刑の執行猶予中に罪を犯し,1年の懲役判決を言い渡されることになった場合,
① 実刑
→ 前刑の執行猶予が取り消され,併せて2年6月の懲役実刑を受けることになります。
② 一部執行猶予 例えば懲役1年うち6月を1年間執行猶予
→ 前刑の執行猶予が取り消される結果,併せて1年半懲役実刑を受けた後,執行猶予期間が始まります。
③ 全部執行猶予 いわゆる再度の執行猶予というもので,前の執行猶予も取り消されることはありません(従来の制度のとおり)



まだ制度として始まったばかりであり,弁護人としてもどこまでこれを視野にいれて弁護活動を行うべきか,判断は難しいところです。


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