http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86600
最高裁は,GPS捜査は令状がなければ行うことができない強制の処分である,と判断しました。
もっとも,事件自体は,上告が棄却されているとおり,被告人の有罪については変更されませんでした。
刑事訴訟法は,捜査に関し,「強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない。」と規定しています(197条1項ただし書き)。
たとえば,逮捕や,捜索,差押え等は,刑事訴訟法に定めがあり,裁判官の発する令状(許可状)がなければ行うことができない,とされています。
これらは,身体の自由や,財産権を侵害する処分であるため,強制の処分に当たるということは,わかりやすいでしょう。
また,これらの強制の処分には,裁判官の発する令状が必要であるというのは,憲法上の要請でもあります。
ただし,令状主義にも,現行犯逮捕は令状なしで行うことができたり,逮捕に伴う捜索差押えは,令状なしに行うことができたり,という例外はあります。
緊急時に令状を必要としていたのでは,捜査への悪影響が大きい一方で,間違いが起こりにくいことも理由として考えられます。
一方,強制の処分でない処分は,「任意捜査」と呼ばれており,これは令状によらずに行うことができるとされています。
当人の意に反していれば強制の処分となる捜査であっても,当人がこれに同意している場合には任意捜査ということになります。
強制の処分がどのような捜査のことであるかが明確に規定されていないため,実際に行われた捜査手続が,強制の処分に当たるのか,任意処分にとどまるのかは,しばしば問題になってきました。
強制の処分であるにも関わらず,令状なしに行ったことにより得られた証拠は,有罪の立証のための証拠から排除される可能性があるのです。
たとえば,警察署に出頭した人に対し任意で取り調べを行うことは,任意捜査の範囲ですから,令状は必要ありません。
しかし,当人が帰りたいと言っているのにそれを許さないという状態になれば,それは当人の意思に反して身体の自由を奪っていることになるため,強制の処分であり,逮捕令状がなければ,違法な取り調べということになります。
また,所持品検査は任意で行われますが,それが任意ではなく強制的なものになった場合は,強制の処分である捜索令状がなければ許されない,ということになります。
法律に定めのない捜査手法が,強制の処分に当たるのかという点が問題になります。
たとえば,当人の承諾のない写真撮影やビデオ撮影が可能か,という点が問題となることもあります。
今回問題となったGPS捜査についても,同じような問題があります。
強制の処分については,最判昭和51年3月16日は,「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」と判示しました。
写真撮影等は,当人の肖像権の侵害として問題がありそうですが,令状がなければ一切行うことができないとするのも,問題です。
このような場合は,必要性・相当性があれば,無令状でも任意捜査として可能であるとされています。
今回問題となったGPS捜査は,当人の居場所が捜査機関には逐一伝わるのですから,プライバシーの侵害となります。
必要性・相当性がなければ,令状があって初めて捜査が可能になる,ということになります。
GPS捜査で,無令状でも行える必要性,相当性は,原則として無いと考えて良いでしょう。
問題は,GPS捜査を適法とする令状が,現行法では予定されていないことです。
判決では,最終的には立法により解決すべきである,と述べています。
捜査機関の令状主義の軽視が,今回の最高裁判決に至ったといえます。
多くの事件で,GPS捜査が無令状で行われているのではないかと思われます。
それらの捜査方針の変更が迫られることになるでしょう。