資産家夫婦であるAとBには実子Cがいました。
AB夫婦は,Cと結婚したDと養子縁組をしました。
養子縁組による節税効果もあり,ABの財産は,子孫へと順調に受け継がれるはずでした。
時は流れ,Aが死亡しました。
相続人は,B,CとD,ということになります。
ここで3人は考えました。
Aの全ての財産をDが相続することにしたらどうだろう,と。
たしかに,現在のB,Cの資産状況を考えれば,Aの財産は,Dに集中させておくことが,最も節税効果が高く,できるだけ沢山の財産を子孫に引き継ぐことができるように見えました。
さらに時が流れ,思いもしなかったことが起こります。
CとDが離婚することになってしまったのです。
Cは焦りました。
Dに相続されたAの財産は,Dに持っていってしまわれるのでしょうか。
離婚時の夫婦の精算手続としては,財産分与があります。
もっとも,夫婦で築いたものではない財産は特有財産といい,財産分与の対象ではないとされています。
そして,相続した財産は,典型的な特有財産です。
このままAの遺産は,Dのものになってしまうのでしょうか?
このような事例で,東京高裁平成5年9月28日決定は,次のような判断を示しました。
(判タ845号300頁)
「相手方は、亡●●の養子として抗告人と共に二分の一の相続権があったにもかかわらず、円満な夫婦関係を維持するために遺産分割協議により抗告人に上記土地を取得させたのであり、実質的にみると、相手方は、その法定相続分たる上記土地の二分の一の持分権を抗告人に贈与することにより、抗告人の財産形成に寄与したものとみることができるから、相手方の法定相続分を限度として、夫婦財産の清算手続に組み入れるのが相当である。」
相手方というのがこの図でいうC,抗告人というのがこの図のDに当たります。
(共に二分の一というのは,この図では当てはまりません。)
すなわち,この図に当てはめてみますと,
本来,Bが2分の1,Cが4分の1,Dが4分の1の法定相続分があったところ,
Dが100%を相続していますが,
Cが「円満な夫婦関係を維持するために」Dに譲った部分については,
財産分与で取り戻せる,ということになります。
財産分与の手続の中で,CはDに対し,Aから相続した財産の最大4分の1を分与せよ,と請求できる可能性が生まれました。
(2分の1とか100%とかではありません。)
税金対策というのが,円満な夫婦関係維持の目的と言えるのかどうかは微妙ですが,私は,税金対策であっても財産分与を妨げるような事情ではないと考えます。
相続財産だから財産分与は求められない,と単純に考えたら,Cは受け取るべき財産を受け取れないままに終わってしまったかも知れません。
全部とは言わないまでも,Aさんの財産を少しでも取り戻せることは,Cさんにとって大いに意味があるでしょう。
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