2015年8月4日火曜日

インターネットトラブルと表現の自由

インターネット上で,権利の侵害をされた,という場合に,どのような手順で権利侵害者を特定し,その権利の回復を図るのか,という点については,以前の記事で紹介してきました。

→ ◆シリーズ インターネットトラブル

インターネット上のウェブサイトというのは,表現の場であります。
そして,表現行為というのは,実は,最も大切な人権であると考えられています。



表現の自由は,憲法21条1項により保障された基本的人権です。
表現の自由が特に大切な人権であるとされる理由は,表現行為が自己実現の手段であり,ひいては自己統治の手段として,民主制の実現に不可欠なものであるからとされています。

憲法上保障されている基本的人権というのは,原則として国家からの自由です。
すなわち,国は,表現行為を原則として制約してはならない,というわけです。

言い換えると,憲法上は,人が,他人の表現行為を制約することまでは規律されているわけではありません。
もっとも,私人間でも,その権利は十分に尊重されるべきであるとされています。

そのため,様々な法規制によって,表現行為が必要な範囲で制約されるのです。

例えば,わいせつな表現は,制約されますね。
また,名誉毀損だとか,侮辱だとかいう表現についても,制約が加えられます。

ポイントは,必要な範囲で制約されるということです。
個人の表現行為を最大限に尊重した上で,それでも制約すべき表現であるかどうかの検討が必要となります。

例えば,他人の悪口を表現したからといって,必ずしもそれが相手に対する権利侵害にあたるとは限りません。
特定の人,団体に関する表現が,対象者に対する権利侵害に当たるかどうかは,様々な要素を検討することになります。
例えば,対象者が公の立場にいる人物か,私人かによっても違うでしょうし,同じ私人であっても有名か無名かなどでも違ってくるでしょう。
また,その表現内容によっても,単なる批判にとどまるものか,それとも侮辱による名誉感情の侵害になるのか,あるいはさらに名誉毀損と言えるのかどうか,なども変わってきます。

インターネット上でなされた表現行為でも同じ事が言えます。
単に悪口を書かれたからと言って,その表現行為が許されないものなのかは,慎重に検討しなければ分かりません。

そのため,プロバイダとしても,単に権利が侵害された,という申告だけでは,ウェブサイトの書き込みを削除する手続を躊躇する場面は多いでしょう。
もちろん,明らかなわいせつ動画などは,迅速に削除されるでしょうが,権利侵害性が明らかでなければ,プロバイダ独自の判断で,削除するのは難しいのです。
なぜならば,勝手な判断で削除したとなると,今度は表現者から,表現行為の不当な侵害であるとして,責任を追及される恐れがあるからです。

そのため,プロバイダ責任制限法が整備され,プロバイダがどのような判断で削除等の要求に対応すべきなのかが定められました。



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