2014年12月2日火曜日

日常家事債務について

日常家事債務という言葉にはなじみがない人が多いでしょう。
しかし,夫婦で同居していると次のようなことに出くわす人は多いと思います。



新聞料金の集金がやってきました。
新聞の契約は,たしか夫の名前でしていたはずです。
しかしそのとき,たまたま家にいたのは,妻だけでした。
こんな場合に,妻は,新聞の契約は夫がしているものだから夫から集金して下さい,ということは出来るのでしょうか。

常識的には,家族で取っている新聞なのだから,妻が支払うべきだと思うでしょうが,いざ,断られてしまった集金人は,この妻に対して,あなたには支払い義務があるから払って下さい,と言えるのでしょうか。

実は,妻には法的にも支払い義務があるのです。
民法761条には,次のように定められています。
「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方は,これによって生じた債務について,連帯してその責任を負う。ただし,第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は,この限りでない。」

新聞料金については,「日常の家事」に関する債務=日常家事債務ということは間違いないと思います。

それでは,どこまでが日常家事債務といえるのでしょうか。

日常家事とは,夫婦と未成熟子が日常の家庭生活を営む上で通常必要とされる一切の事項」とされています。
この判断にあたっては,夫婦の社会的地位や職業,資産,収入などの内部事情や,法律行為の種類・性質などの客観的要素が考慮されます。

すなわち,日常家事の範囲は夫婦によって異なる事にはなりますが,衣食住,高熱,家電・家具等の日用品,自動車,医療,娯楽・交際費,教育などにかかる費用は,日常家事に該当し得ます。
かなり広い範囲に,日常家事性は認められると言ってよいでしょう。
例えば,子どもの教育のために40万円の教材を買ったとしても,夫婦には連帯責任が生じるというのが原則です。

さて,それでは,次のような場合はどうでしょうか。
Xは,Aの夫Yに収入があることを知って,Aに対して自動車を分割払いの約束で売りました。
しかし,AYの夫婦の実情を考えると,Aによる自動車購入は家庭生活に必要なものではなく,日常家事債務であるとはちょっと言い難いものでした。
やがて,Aは,代金の支払いを滞らせましたが,XはYに対して代金の請求は出来ないのでしょうか。

このような場合に,判例では,民法110条の表見代理の規定を類推適用して,Xが保護される余地を認めています。
(ただし,「類推適用」という言葉があるとおり,夫婦間で,日常家事に関する代理権があることを認めている訳ではありませんから,妻が勝手に夫の名前で契約する,と言ったことは認められません。)
この類推適用が認められるためには,当該法律行為が夫婦によっては日常家事の範囲内に入る法律行為であることと,日常家事であると信じたことにつき無過失であることが必要となります。

民法761条にもあるとおり,これは日常家事ではないので夫(妻)は責任を負いません,と契約時に伝えていれば,配偶者が責任を問われることはありません。
しかし,口頭でそれを伝えた程度では,それを伝えたという証拠にはなりませんので,契約書類にきちんと残しておくべきでしょう。
もっとも,光熱費など,定型的な契約書と約款による取引(これは典型的な日常家事でもあります)において,夫婦連帯ではないという切り離しは事実上不可能でしょう。


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